M41を撮る前にひと仕事

今回は何かを撮影したというものではなく、撮影前の準備ができたという内容になります。以前の記事(月食や引き伸ばしレンズの記事)の続きを書くつもりでしたが、ここ1週間ほどで色々とやった事を覚えているうちに記事にしておきます。

M41の撮影

今年の1月末頃にXのタイムラインで、赤い星雲を背景にしたM41を見かけました。

非常に美しく自分でも撮ってみたいと思い、早速2月に撮影。背景の赤い星雲はかなり淡い様なので、光害地の自宅から狙うとなるとデュアルナローのL-Ultimateを使っての撮影です。
ところがいざ撮影してみると、ゴーストが映り込んでしまいます。以前似たようなゴーストが出た記憶があったので、近くにあるシリウスによるものと予想されたので、これを何とかしてから改めて撮り直しするつもりでいました。そして今シーズンになり、ゴーストのことをすっかり忘れてつい先日撮り増しをしてしまいました。

以下は処理途中でストレッチした状態の画像(右はその星無し画像)で、画面上側に同心円の円弧状のゴーストが写っているのが分かると思います。

M41とゴースト
撮影日時: 2025/2/10 22:14-23:59, 11/12 3:40-5:16 @自宅ベランダ
EVOGUIDE 50ED+Flattiner, ASI533MCP, SA-GTi, L-Ultimate
Temp.=-10℃, Gain=300, Exp.=300s ×61 frames (5hr 4mn 57s )
DSS, Siril, Starnet2, GIMP で処理

さすがに還暦ともなると9か月前のことをすっかり忘れるものですね。撮影がある程度進んだときにライブスタック画像を見てようやく思い出しました。その後も撮影を中断するのも勿体無いため、3時間ほど撮影し、2月の分と合わせてトータル5時間分をスタックしたものが上の画像です。

画像処理で何とかしようとしましたがどうしてもゴーストは消えないので、急遽原因確認と対策を行いました。

以前出たゴースト

このゴーストがシリウスによるものと思ったのは、以前レナード彗星(C/2021 A1)を撮影したときにそっくりなゴーストが出たのを記憶していたためです。その時に撮ったデータを動画にしてみました。

レナード彗星(C/2021 A1)撮影時に発生したゴースト

この画面の下側には幾つかあかるい街灯があり、彗星の高度が下がるとこの街灯が光源となって発生していた様です。当時は毎日の様に撮影していたので、被写体の高度がかなり低いときにしか出ないゴーストの原因を特定したり対策したりする時間がもったいないので、そのまま放置していました。

この時のフィルターはCBPで今回はL-Ultimateですが、これだけ似た形状とであれば原因も同じと考えられます。

ゴーストの再現

下図の様に、M41に対しシリウスは北に約4度離れています。

M41とシリウスの位置関係(Stellariumより)

これを再現しようと、シリウスに見立てた街灯が視野中心になる様に鏡筒を向け、少しずつ上方に鏡筒の向きを約5度まで変えて撮影した動画が以下になります。

L-Ulutimate装着時のゴースト発生の様子
街灯が視野中心(0度)に写る状態から鏡筒を上方に5度まで動かしたもの

街灯の左の明るいものは看板で、街灯の上下や斜めに見える光条は網戸と窓に埋め込まれた針金によるものです。寒いので窓を閉めたまま撮影しているため、以降の画像で光条の様なものが写っていてゴーストと紛らわしいですがご容赦ください。

街灯からある程度離れたところで、ゴーストが見えてくるのが分かると思います。街灯との離角が約4度で鏡筒を固定し撮影したものが以下の画像です。

M41撮影時と同等のゴーストが発生した様子
街灯との離角を4度にしたもの

光源(街灯)が下にあるので向きは逆ですが、M41を撮影したときと形状や色が良く似たゴーストが出ました。

では、フィルターをCBPにしたときはどうでしょう。上で作った動画と同じものを作ってみました。

CBP装着時のゴースト発生の様子

L-Ultimateと同じ様なゴーストの出方で、レナード彗星の動画で出ているゴーストともよく一致します。

こんな感じでゴーストを再現できたので、ゴーストの原因を見つける作業はそう大変ではありませんでした。
なお、CBPを付けた場合ですが、4年前のフィルターの取付け方から現在のフィルターの取付け方に変えるとこのゴーストは出なくなります。こういった現象も、原因を特定する材料になりました。

ゴーストの原因

今回のゴーストは、形状や輝点(街灯)の位置に対する動きなどから、鏡枠(又はレンズのコバ)あたりの反射で起こっていることは予想がつきました。あとは、殆どの場合「強い光を当てた時に光って見える場所」が原因という、当たり前といえば当たり前の経験則をもとに、原因箇所の特定を行います。

その際、いきなりL-Ultimateだと透過率が低く原因個所が見づらいため、フィルターはCBPとし、ゴーストが出た4年前の取付け方(下図)にして対物レンズの前からライトを照らしてみました。

4年前のCBPの取付け方

すると、延長筒の一部が非常に明るく光って見えます。多分の枠の反射が原因と思われます。

フラットナーを装着して像側から覗いた様子

現在のCBPの取り付けは、以前記事にしたフラットナーをプチ改造してフラットナー前面にねじ込んでいます。そのためこの延長筒は使わないので、ゴーストが出なくなるのも当然です。

現在のフィルターの取り付け方
左:プチ改造したフラットナー、右:上部にCBPを装着した様子

では、L-Ultimateは上図の(現在の)取り付け方なのにゴーストが出るのは何が原因でしょうか?

L-Ultimateを装着し今度は対物レンズ側から覗いてみると、L-Ultimateの枠が結構明るく光っています。

L-Ulutimateを装着して対物レンズ側から覗いた様子
対物レンズは外した状態、右は光っている部分の拡大

フィルターを取り出してCBPと比べてみると、L-Ultimateの方が枠の反射が非常に強いことが分かります。

左:L-Ulutimate、右:CBP

CBPは枠の反射が少ないため、L-Ultimateと同じフラットナー前面にねじ込んだときゴーストが出ていないと考えると辻褄が合います。

原因の特定

原因を取り違えて対策しても無駄になるので、本当にL-Ultimateの枠の反射が原因かを以下の様にフィルターに絞りを付けて確認してみました。こうすると、枠に光が当たらないのでゴーストは出ないはずです。

L-Ulutimateの前面に紙で作った絞りを貼り付け

以下は結果画像で、予想通りゴーストは発生しません。

L-Ulutimate前面に絞りを貼り街灯との離角を4度にしたもの

簡易的な確認ですが、この結果をもってL-Ultimateの枠の反射が原因と特定してよさそうです。

対策

対策としては以下の2つが考えられます(※原因の特定で作った絞りを付けるという手もありますが、光束が大きく蹴られるので除外しています)。

  • ①フィルターをセンサー直上につける
  • ②枠の反射を減らす

②は塗料を塗るか低反射のシートを貼ることになるので、追加投資が必要です。なので、まずは①を試してみました。

L-Ulutimateをカメラの前面に付け街灯との離角を4度にしたもの

確かにあのゴーストは出なくなります。但し、よく確認すると街灯との離角が3度程度で極薄く別のゴーストが出るようです。

L-Ulutimateをカメラの前面に付け街灯との離角を約3度にしたもの
(上の画像よりもゲインを上げ露光時間を延ばしている)

今回の撮影には影響しないレベルかもしれませんが、現在は出ていないものなのでできれば避けたいです。また、反射率の高いフィルターがセンサーに近くにあると、センサー表面も反射率が高く且つ散乱もあるので何かと迷光が発生します。(色々書きましたが、苦労してフラットナーをプチ改造し取り付けたフィルターネジを使わないのは勿体無いというのが本音です。)

そのため多少出費はありますが、②もやってみることにしました。購入したのは以下です。

左:真・黒色無双、右:カニ目レンチ

左の真・黒色無双は「世界最黒の塗料」という謳い文句の水性塗料で、天文界隈の方ならご存知かと思います。剥がれやすいという欠点もある様ですが、今回はあまり触る場所ではないのでこれにしました。

あと、右のカニ目レンチは今まで持っていませんでした。精密ドライバー1本で抑え枠を外そうとすると、お高いフィルターを傷つける可能性もあるので購入しました。実際フィルターを外してみると、抑え枠は緩く締められていたのでカニ目レンチは無くても良かったのですが、光学機器を扱っていると必ずどこかで使うことになるので特に買っても損はなかったと思います。

フィルターの枠に塗料を塗ったあと、CBPと比べてみました。

左:が真・黒色無双塗装済みのL-Ulutimate、右:CBP

いかがでしょうか。真・黒色無双の効果は絶大ですね。ほぼ反射光はなくなりました。写真は表側からの撮影なので見えませんが、裏側も同様に処理しています。そして、この状態のL-Ultimateを装着して撮った画像が以下になります。

塗装済みのL-Ulutimateを付け、街灯との離角を4度にしたもの

狙い通り、ゴーストが出なくなりました。

参考までに、CBPを以前の付け方で付けた時のゴーストに対しても確認してみました。
まず、ゴーストの原因となっている延長筒の塗装前と塗装後の画像です。

左:塗装前、右:塗装済

光の当たり具合が少し違うので同じ土俵での比較になっていませんが、塗装済みのものはほぼ反射光はありません。次にCBPをこの延長筒に付けたときの結果です。

左:塗装前、右:塗装済

こちらも、塗装後はゴーストが出ません。やはり枠の反射が原因で、塗装することでゴースト対策ができることが分かります。

長々と書きましたが、今後は②の対策を行った状態でM41の撮影に挑みたいと思います。

まとめ

L-Ultimateを使ってM41を撮影する際にシリウスによるゴーストが出てしまうことが分かり、今回その原因の特定と対策を行ってようやく撮影する準備が整いました。

ゴーストの原因特定と対策という様な作業は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではありませんが、整理された状態で記録を残しておかないと、後で何かしら不具合が起きた際にどういう確認をしたかが振り返れなくて困ることが多々起きます。そのため、詳細を覚えているうちに記事にしました。実際の撮影はこれからですが、この記事をご覧になる皆さんにも何かの参考になればと思います。

最後に、冒頭に載せたゴーストありのデータを色々弄って仕上げた画像を載せておきます。

M41(ゴーストを軽減したあと通常行っている処理をしたもの)
撮影データは前述の通り
使用ソフトは前述の物に加え、AstroSurface, Neat Imageを使用

StaeNet2で星無し画像を作り、G-ch、B-chのデータをモノクロ化して引き算という処理で青緑のゴースは軽減させましたが、赤い星雲と同じ色のゴーストはそのままです。
今回の対策で、次はこのゴーストが無い画像が得られるはずです。また、星の色を出すためにはバンド幅の広いフィルターでの撮影も必要になります。果たして今シーズン中に満足のいく画像を撮ることができるでしょうか?楽しみです。