9月8日の皆既月食から既に1ヶ月ほど過ぎようとしており、天文界隈では専らLemmon彗星の話題で持ちきりです。月食が遠い過去に思えるこの時期になって、ようやく撮影した画像の処理が終わったので紹介したいと思います。
なお、今回の記事では主に成果物(作成した画像・動画)を紹介し、撮影時の諸設定や画像処理の詳細は別途記事を書くつもりです。
機材について
今回の機材です。
- 撮影: EVOGUIDE 50ED+2.5xBarlow+Flattener+0,75xReducer ASI533MCP, SA-GTi
- 眼視: MAK127+25㎜接眼, AZ-GTi, 8x42mm双眼鏡
前回(2022年11月8日)の月食では天王星の掩蔽も撮影したのでカメラ2台体制でしたが、今回は1台だけなので撮影の合間は眼視に集中できました。
今回、EVOGUIDE 50EDにバロー+レデューサーという変則的なことをやっています。これは、直焦点だと月が小さく写るのでバローレンズを入れていますが、Fno.が12.5と暗く皆既中の露光時間が伸びるので試しにレデューサーを入れました。Fno.は10.8になります。
今回皆既中の月は暗かった様で、多少なりともFno.を明るくしたのは正解だったと思います。しかし、撮影してみると少し画質が落ちていました。フラットナーが不要だったのかもしれませんが、時間が取れず未確認のまま本番撮影となりました。
撮影について
前回の月食では、以下の様な反省をしていました。
細かい内容はリンク先を見て頂ければと思いますが、「撮影画像の使い道をちゃんと考えてなかったことが最大の反省点」とまとめています。
これを踏まえて…というより、この時から次回は「地球の影を固定したタイムラプス動画を作る」と決めていました。そのために、以下の記事にある様に地球の影の中心座標を計算するExcelシートや、その座標値に合わせて画像を配置し動画にするソフトを作っていました。
もちろん、その過程で作られる画像で以下も作るつもりでした。
- 月の位置を固定したタイムラプス動画
- 地球の影を示す画像
タイムラプス動画を作るには、等間隔で出来るだけ多くの画像を撮る必要があります。しかし、結果的に撮影間隔は平均3.3分ですが1分半~6分程度とバラつきました。
撮影間隔がバラついた(特に間隔が伸びた)のは、のどが渇き給水したり、気温が下がり服を取りに戻ったりと撮影の合間にあれこれやったためですが、一番の理由は眼視した月食の美しさに時間が経つのを忘れたためでした。バラついた結果タイムラプス動画は多少カクカク動きますが、まぁ、美しい月食をこの目で直接見られたのですから良しとしましょう。
あと、撮影場所はいつもの自宅ベランダです。当日は雲1つ無い晴天で月食の全過程を撮影出来ました。撮影した動画は全部で72本。そのうち69本をスタックしタイムラプス動画の元画像としました。
今回の成果物
主に成果物を紹介.. と言う割に、前置きが長くなりましたね。以下が今回の成果物で、何れも画面の上が赤道座標の北になります。
月を固定したタイムラプス動画
まずは、撮影画像を月の中心で位置合わせしタイムラプス動画にしたものです。
各々の画像は、できるだけ目で見たものに近づけたつもりです。もちろんカメラのダイナミックレンジは人の眼には及ばないので、高輝度部は圧縮しコントラストが落ち低輝度部は露光不足で暗くなっています。
しかし、自分が一番気になっていた「地球の影の境界が眼視ではハッキリ見える」点については以前よりは良くなったと思っています。
地球の影を固定したタイムラプス動画
次は、画像を本影の中心を基準に配置しタイムラプス動画にしたものです。
前回は影(の境界)の位置が若干ズレて見えてしまいましたが、今回はほぼ狙い通りの動画になりました。
地球の影
14枚の画像をピックアップして比較明合成したものです。

部分食の食分が大きいほど地球の影が明るくなる処理をしていたので、影の明るさが大きく変わらない様に少しトーン調整しています。
その他の成果物
今回の撮影で作りたかったものは以上ですが、他にも幾つか画像を作りましたので紹介します。
眼視のイメージに近づけた画像
今回各々の画像は、撮影した動画をスタックしトーン調整したものです。通常通り高輝度部が飽和しない様にゲインと露光時間を設定し、1動画あたり12~250フレーム撮りました。多段階露光してないので暗部は露光不足で、トーン調整で持ち上るとザラザラになり色もおかしくなります。そのため暗部は抑え気味の処理になっていて、眼視のイメージには物足りません。
以下は、その画像をちょっと反則技を使って眼視のイメージに近づけたたものです。

双眼鏡で眼視した印象にだいぶ近いと思っていますが、どうでしょうか?
なお、反則技と書いたのは撮影時刻が違う2枚を元画像に合成したためで、この画像はあくまで観賞用として仕上げました。
地球の影その2
今回作成したものに前回のものを合成しました。上側が前回、下側が今回のものです。

1回の月食では表せない丸い影が浮き上がってきました。
部分食の影の明るさが違いますが、前回は暗い部分をより暗くする処理で今回は暗い部分を少し持ち上げているためです。一方、食の最大の画像は、前回分を今回ほぼ同じやり方で再処理したので明るさの差が反映されているはずです。今回は前回よりかなり暗く感じましたが、思ったより差が少ない結果となりました。
あと、前回の月の方が大きくなってます。月までの距離は今回の方が近いので今回の月の方が大きいのになぜ?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
これは、本影の大きさを揃えて合成したためです。以下は国立天文台のWebサイトの説明図で、「太陽と地球が近い」「地球から月が遠い」ほど本影が小さくなるのが分かると思います。

Stellariumによると前回は今回より太陽-地球は1.7%ほど近く、地球-月は6.5%ほど遠かった様です。以下は夫々の本影をStellariumでシミュレートしたものです。

月は今回の方が若干大きいですが、本影は前回の方がかなり小さかったことが分かります(※前回の月の周辺に描いた点線は今回の月の大きさです)。
地球の影その3
しつこいですがもう1枚作ってみました。ソーセージみたいな絵ですが、皆既食中の25枚を全て比較明合成したものです。皆既食中の処理は「ゲイン(による倍率)」×「露光時間」が一定になる様に明るさを調整した後、同じトーンカーブで調整しています。

前掲の月を固定したタイムラプスを見ると皆既食中に黒いものが横切る様に見えたので、本影内は一様な暗さではなく分布があるだろうと思い、比較明合成して明るさの分布を見てようと考えました。
月表面の模様の濃淡は月の移動(画面では右下から左上)方向の直線になるはずなので、それ以外は本影内の明るさの分布を示しているのではないかと思います。そうだとすると、やはり本影内の分布は一様ではなく、更に影の中心から同心円状という訳でも無さそうです。本当にこの様な分布なのであれば、それがどの様にして起こっているのか気になるところです。
あと、調子に乗って上記画像に部分食の画像も加えてみました。

但し、部分食の画像は明るさが揃っていない(上述の様に食分が大きいほど影が明るくなる)のでトーン調整して見た感じで明るさを揃え、皆既食中の画像も(こちらも見た感じで)部分食画像の影の明るさに揃えています。そのため正しい明るさ分布ではなく、あくまでお試しで作った参考画像です。
大気の屈折で潰れた月
今回、部分食の終了時の月は高度が低く、撮影した月は潰れて楕円に見えていました。以下は1:26と5:04の画像を交互に表示するアニメーションGIFです(5:04の月は高度4°)。

かなり潰れているのが分かりますね。画面中心から左上方向が天頂なので、その方向に潰れています。
まとめ
今回の月食は3年前の反省点を踏まえて撮影をしたため、自分としては満足のいく成果物を作ることができました。ここ数日は、出来た画像や動画を何度となく見返しています。そうしているうちに、撮影間隔はやはり等間隔が良いとか、もう少し短い間隔にすれば良かったなど色々と欲が出てきます。
しかし、撮影の合間にじっくり眼視したり妻をベランダに呼んで一緒に眺めたりといった時間も欲しいので、今回の様に3分前後の撮影間隔でバラつきありというのは避けられない気がします。撮影を自動化すれば良いのでしょうが、現時点の気力と財力…ではなかなか難しいですね。それより、今回行った画像処理の自動化を進めた方が良いかもしれません。