昨シーズン露光不足に終わったDSOを追加撮影
2022年の5月にスカイメモSを購入して以来、その年の年末にかけてEVOGUIDE 50EDを使ってメジャーなDSOを撮影していました。その中で、もう少し追加撮影しようと思いながらも撮影の機会がなかった天体がありました。昨年末から年明けにかけてようやく撮影が出来たので、その結果画像を紹介します。
撮影したDSO
対象のDSOは、M45、M33、NGC2264の3つです。以前の画像は以下の記事に掲載しています。
M33とNGC2264は何れも総露光時間1時間36分で時間的にはそんなに短いと思っていませんでしたが、いざ処理してみると淡い部分が炙り出せずノイズも多めという結果でした。そのため、来シーズンは追加撮影しようと決めていました。
M45は4時間ほど露光時間をかけましたが、強調処理すると結構ノイズが目立つ結果でした。また、構図が少しずれていて被写体が若干右下に寄っていたので、追加撮影ではなく撮り直しをするつもりでした。しかし、実際に撮影して前回のものと比べてみると被写体が多少左上にズレているだけで、写っている領域はほぼ同じです。今回分だけで処理するのも何だかもったいない気がしたので、結局、前回のものに今回分を追加して処理することにしました。
各DSOの結果画像
M45
M45は、昨年12月18日と今年1月6日に撮影しました。前回分と合わせると総露光時間は7時間39分ほどになります。
露光時間が1.8倍強になったことで、前回より淡い部分を炙り出せて反射星雲の領域が広くなっています。また、強調処理を少し強めに行うことが出来たので、解像感も上がり刷毛で刷いた様なスジがはっきり見える様になりました。
ただ、長時間露光で強調処理に対する耐性が上がったのでディテールを出そうとしてついつい強めに強調してしまい、結局ザラザラ感が残ってしまいました。
これだけ撮影に時間をかけても、強調し放題という訳にはいきませんね。さすがに自宅からの撮影ではやむなしでしょうか。撮影した画像はPCモニターでしか見ないので、普段見る分には老眼と相まってノイズのザラザラは殆どわかりません。これだけ淡い部分が出てディテールも引き出せたので、素直に喜びたいと思います。
M33
M33は1月12日に追加撮影を行いました。一つ前の(2024/1/8)の記事に書いた機材構成で撮影すると、少し高度が高い時間帯から撮影が出来るので、この1日の撮影で2時間ちょっとの露光となり前回分を含め総露光時間は3時間54分となりました。
前回と比べると、周囲の淡い腕がかなり見えてきました。ノイズ感も若干ですが減っています。この辺は露光時間が倍以上になった効果ですね。銀河の腕のツブツブ感も、僅かながら表現できている様に見えます。
機会があれば、もう少し露光時間を伸ばして周囲の腕をもっと炙り出したいところです。他にも、暗黒帯や赤ポチ、腕のツブツブ感などももっとハッキリさせたい… と色々と欲がでてきますが、口径5cmの鏡筒なので更に露光時間を伸ばしてもそこまでは難しいかもしれませんね。
NGC2264
NGC2264は、昨年12月22日と今年の1月7日に撮影し、前回分と合わせて総露光時間は4時間54分となりました。
露光時間が前回の3倍程になったので、前回と比べるとかなり淡い部分を炙り出すことができました。また、コーン星雲(下の画像の下部)やキツネの毛皮星雲(下の画像の中央右上辺り)の細かい構造も少し見える様になりました。
強めの強調処理を行ったため細かい部分も見えるようにはなりましたが、M45と同様に副作用として若干ザラザラ感は残っています。それでも、この星雲部分に対しては前回の1.6時間という露光時間は短かった様なので、今回の追加撮影によって画像全体の印象はかなり良くなったと思います。
まとめ
昨シーズン露光不足に終わったDSOを追加撮影した結果、いずれの被写体も目論見通りの結果になったと思います。以前は、1時間程度の露光時間で満足していましたが、ネットで見かける素晴らしい作品に近づけようとすると(まだまだ近づいていませんが)かなりの露光所間が必要なことが分かりました。
一方で、これだけ長い露光時間をかけても、その分強い強調処理を行ってしまいノイズによるザラつきは残ったままでした。これを改善するならば、更に露光時間を伸ばすか、自宅ではなく遠征して暗い空で撮影するか、画像処理を変えるか… と言ったところでしょうか。何れも、今の自分にとってはなかなか大変です。素直に強調し過ぎないという対応もありますが、せっかくの長時間露光なので心情的になかなか難しいです。まぁ、拡大して見ない限りはそんなに目立たないので、当面は「気にしない」という対応でいきたいと思います。
自宅ベランダからM31を撮る
M31は、自宅のベランダからだと撮れそうで撮れない天体です。昨年末、手持ち機材を組み合わせてこの撮影に成功したので、今回はこの時の機材と結果画像を紹介したいと思います。
ベランダからの見え方
以下は自宅のベランダを上から見た図で、通常は赤い三角形で示したところに三脚を置いています。M31はオレンジの矢印で示した様に、建物や上の階のベランダに隠れて見えません。
以下は西側を見たときの様子をStellariumでシミュレーションしたものです。
こちらの図にも、M31の動きをオレンジの矢印で示してみました。見ての通り、屋根と壁に隠れてしまうのが分かると思います。
そして、三脚を西側に寄せる(最初の図で青い三角形で示した位置にする)と多少北側の視界が広がり、以下の写真の様にM31が見えてきます。
写真の様に2台の鏡筒を並べると西(左)側の鏡筒からだと見える様になります。しかし東(右)側の鏡筒からは見えないので、オートガイドしようとすると撮影鏡筒またはガイド鏡のどちらか一方しかM31は見えません。
ノータッチガイドだと撮影できるものの、そうすると1フレームの露出時間が短くなり、また、鏡筒がもう少し西側にないとM31が見えている時間も短くて総露光時間も稼げません。
そのため、一昨年スカイメモSを購入したあとEVOGUIDE 50EDと組み合わせてメジャーな天体を撮影していたのですが、M31は撮影することが出来ませんでした。
では、M31を自宅から撮ったことがないかというと、北側の部屋にある花台窓手すりから撮影したことがあります。花台窓手すりからの撮影については、以下の記事を参照してください。
以下は、花台窓手すりから撮影した画像です。
この撮影の場合、スペースの関係上機材はFMA135+AZ-GTiに限定されてしまいます。焦点距離が135mmなので、1インチのASI533MCPと組み合せるとこの様に少し小さく写ります。また、AZ-GTiは経緯台なので(赤道儀化していないので)視野回転があり1フレーム当たりの露出を長くできず、ゲインが高いことが影響してノイズが目立つので強めの強調処理は行えません。
もう少し大きく且つ1フレーム当たりの露出を長くしたいとなるとEVOGUIDE 50ED+赤道儀となるので、どうしてもベランダからの撮影が必要となり、以前から何とかしたいと考えていました。
M31撮影の機材構成
今回、以下の機材構成とすることで、ようやく撮影が可能になりました。
メイン鏡筒・ガイド鏡筒を、スカイメモS の赤緯体として購入したEQM-35Pro用L型微動雲台に載せ、それを赤道儀に載せるという構成です。こうすると、メイン鏡筒とガイド鏡筒の両方が西側にかなりシフトするので、どちらの鏡筒からもM31を捉えることが出来ます。
昨年12月初旬にこの機材構成で初めて撮影し、L型微動雲台と鏡筒2本が架台やベランダの手すりと干渉しないかなど色々と事前確認を行いました。そのため、その日は40分程しか撮影できませんでしたが、この構成だとM31は最大で2時間ちょっとの撮影が可能です。
L型微動雲台はスカイメモS と一緒に2022年の5月に購入、そのあと昨年1月にStar Adventurer GTi(SA-GTi)を購入して機材が揃ったことで、やっとM31をオートガイドで撮影することが出来ました。
結果画像
やっぱり画面一杯に広がる銀河は良いですね。
今まで撮影出来なかった反動からか、3日がかりで4時間という自分としてはかなり長い露光時間となりました。SetllariumでEVOGUIDE 50ED+ASI533MCPの写野を確認すると周辺の淡い腕の部分が少しはみ出る様ですが、光害のためかこれだけ時間をかけてもそこまでは表現できていません。それでも、自宅からこれだけ写せれば十分満足です。
M31以外の被写体
この構成にして視界が北西に広がったことで、今までM31と同じ様に写せなかった天体が撮影できそうです。例えば、カリフォルニア星雲や勾玉星雲などです。他にM13も見えるようにはなりますが、EVOGUIDE 50EDだとちょっと焦点距離が短いですかね。これらの被写体も、随時撮影していきたいと思います。
あと、この機材構成だと鏡筒が西側にシフトするので、ベランダの屋根との位置関係から西側に傾いた被写体の高度が高い時間から撮影できるようになりました。高い高度での撮影は、光害の影響が多少減ることと、1回(1日)当たりの露光時間が長くできるという2つの点で有利です。そのため、今まで撮影したことがある被写体を、この構成で撮り直すのもよさそうです。
ということで、いくつか撮影したものの中から1つ紹介します。
くらげ星雲はこの構成でなくても撮影は出来るので、以前撮影しています。そのときは、高度が低い状態からの撮影だったというだけでなく経緯台だったこともあり露光時間はあまり長くありませんでした。
しかし、今回は赤道儀でしかも高い高度の状態から撮影したので、露光時間を長くすることができました(本当は1.5時間露光で他の天体を撮るつもりでしたが、寒かったのでそのまま撮り続けたというのが実情です)。そのおかげか、クラゲの頭のアミアミが表現できました。
まとめ
機材構成を少し工夫したことでベランダでの西側の視野が広がり、以前はFMA135+経緯台でしか撮影出来なかった被写体がEVOGUIDE 50ED+赤道儀で撮影出来るようになりました。また、被写体によっては高度が高い時間帯から撮影ができます。
今後、撮影できなかった被写体はもちろん、過去に撮影した被写体につてもこの機材構成で撮ってみたいと思います。
MAK127によるDSO撮影のつづき
今年の6月から10月までは、Sky-Watcher MAK127で撮ったDSOを頻繁に記事にしていました。その後、11月初旬が木星の衝だったという事もあり惑星関連の記事を2回連投しましたが、MAK127によるDSO撮影には続きがあります。随分前に撮ったものもあるので、忘れないうちにそれらの画像を記事にしておきたいと思います。
X(旧Twitter)にポストしたものもが殆どですが、追加撮影して露光時間を増やしたものもありますので最後までお付き合いください。
はじめに
今回紹介する画像を撮影した機材はフィルターを除いてほぼ同じなので、最初に記載しておきます。
- 光学系:Sky-Watcher MAK127+Kenko Close-up lens No.4 + No.5
- カメラ:ZWO ASI533MC Pro
- 架台:Sky-Watcher Star Adventurer GTi(以降SA-GTiと記載)
なお、2年前に撮影した画像も掲載していますが、その画像については Close-up lensではなく笠井トレーディング1.25"レデューサー、SA-GTiではなくAZ-GTiを使っています。
撮影日は前後しますが、以降にDSOの種類ごとに紹介していこうと思います。
惑星状星雲
最初は惑星状星雲で、最初はどくろ星雲(Skull Nebula)と呼ばれているくじら座のNGC246です。
Xにポストした時はどこが「どくろ」?と思っていましたが、180度回転させると、何となくかわいい石ころの様などくろに見えてきました。
この星雲は初めての撮影で、私にとってはあまりなじみのなかった星雲だったのですが、Webで検索すると結構出てきたのでメジャーな天体なのでしょうね。
次は、ろ座にあるNGC1360です。
コマドリの卵星雲とも呼ばれている様で、色がとても美しい星雲ですね。
いつかはちゃんと撮りたいと思っていて、2年前に初チャレンジしました。しかし、露光不足でかなり残念な写りだったため、今回かなり時間をかけて撮影しました。露光時間3時間半ほどの状態で一度Xにポストしましたが、まだまだ露光不足だったので、追加撮影し総露光時間4時間44分とした結果がこの画像です。
この星雲、非常に淡く難敵です。これだけ露光時間をかけてもまだノイズが目立ち、かなり強めのデノイズ処理で誤魔化しています。それでも2年前は以下の状態でしたから、大進歩です。
系外銀河
今回撮影した2つの系外銀河も、前出のNGC1360と同様2年前に撮影しています。露光時間も同じく2年前より増やしたので、どう変わったかを見られるように2つ並べて掲載します。
1つめは、ちょうこくしつ座のNGC253です。
露光時間が30分弱から1時間半弱と約3倍なので、2年前のものと比べると銀河の腕の部分がかなり明るく写っています。CBPを使った効果か若干赤ポチも写っている様なので、調子に乗って少し明るめに仕上げたというのもありますが、これだけ写ればかなり満足です。
2つ目は、くじら座のM77です。
こちらも、露光時間は48分から2時間40分と大幅に増えています。
しかし、周辺部はかなり暗い様で、2年前のものと比べて僅かに明るくなったという程度でした。そういう意味では露光時間を増やした効果は出ていませんが、ノイズが減ってかなり滑らかな画像になっています。
散光星雲
散光星雲は、IC434(馬頭星雲)とM42を撮影しました。
何れも、昨年EVOGUIDE 50EDで撮影しています。今回はクローズアップして、星雲の細かいモクモクやウネウネを写し出したいという狙いです。
まずM42です。
光学系の性能と架台の追尾精度のため多少眠い画像にはなるのですが、M42は非常に明るいのである程度の強めに強調処理を行うことが出来ました。その結果、目論見通りの仕上がりになったと言って良いと思います。少し残念なのは、中心部が若干飽和してしまっている部分でしょうか。
一方、馬頭星雲(の背後のIC434)はM42と比べるとかなり暗く、2時間40分の総露光時間でもまだ足らない様です。
もう少し明るく強調処理も少し強めて背景のモクモク感をもっと出したいところですが、ノイズが目立ってしまうのでこの位に止めています。今年中には1~2時間程度追加撮影するつもりでしたが、残念ながら来年以降ですね。年明け早々にでも撮影したいと思います。
超新星残骸
最後は超新星残骸で、この時期と言えばM1(かに星雲)です。こちらも2年前に撮影しているので、その時の画像と並べて掲載します。
2年前の露光時間は23分、今回は54分なので、当然といえば当然ですが淡い部分まで写っていると思います。ただ、露光時間が1時間未満と少ないためかなりノイズが多く、強めのデノイズ処理を行っています。馬頭星雲と同じく、年明け早々にでも追加で撮影したいと思います。
まとめ
今年6月頃から、MAK127+クローズアップレンズという構成でDSOを撮影してきました。焦点距離が約1,000mmなので、長焦点ならではの迫力のある画像が得られます。
また、以前MAK127で撮影していた時はAZ-GTi(経緯台)でオートガイド無しだったので1フレームの露出は8秒から16秒と短く、視野回転もあり短めの総露光時間でした。今年からはSA-GTiでオートガイドしながらの撮影になり、1フレームの露出時間、総露光時間共にかなり増やせる様になりました。
周辺は結像性能が悪く星は丸くならず、SA-GTiにとっては焦点距離が長すぎて追尾精度不足によるボケも生じてしまいますが、自分としてかなり満足しています。当面は新たに鏡筒を購入する予定はないので、長焦点に関してはこの機材構成を使っていこうと思います。
今シーズンの惑星撮影について
前回、今シーズンの木星について記事にした際、「撮影や処理で苦労した点やトラブルなどについて後々記事にする」と記載していました。
1ケ月ほど過ぎてしまいましたが、今回それらに関して木星以外の惑星撮影も含めて記事にしてみました。
惑星撮影の機材構成
惑星撮影は、以下の機材で行っています。
- 光学系:Sky-Watcher MAK127,笠井トレーディングFMC3枚玉2.5xショートバロー31.7mm,UV/IR-cutフィルター
- カメラ:ZWO ASI224MC
- 架台:Sky-Watcher Star Adventurer GTi(メイン),AZ-GTi(サブ)
- その他:AstroStreet フリップミラー,M42延長筒など
昨年までと違う所の1つは架台で、今年初めに購入したStar Adventurer GTi(以後SA-GTiと記載)をメインで使用する様になりました。
もう1つ変えた所はカメラ接続部の延長筒の構成で、以下がその写真です。
以前の構成は昨年の記事に記載しています。
架台は経緯台から赤道儀に変わったというだけなので、カメラ接続部分について少し詳しく記載します。
大きく変えた所は、バローレンズを入れているM42延長筒とカメラの間になります。昨シーズンはここにUV/IR-cutフィルターを入れたM42延長筒(長さ21mm)を入れてカメラと接続していました。シーズン途中でM42延長筒とカメラの間に更に延長筒を追加し、最終的にバローレンズ⇔カメラ間を36mmと元々のバローレンズの倍率である2.5xの拡大率で運用していました。
今シーズンはカメラ側に1.25”のノーズピースを付け、バローレンズを入れているM42延長筒の後にはフリップミラーに付属していたM42-1.25”アダプターと、約6mm厚のスペーサーという構成にしました。
この構成にした理由は2つありあります。
1つは、DSO撮影と惑星撮影でM42延長筒を共用していて、撮影の度に延長筒を取り換える必要があったのでこれを専用化しました。延長筒を共用していると、撮影の期間が空いた時にどの延長筒を使うか忘れてしまい、間違った延長筒を組付けて補正光学系以降のバックフォーカスが変わり、惑星撮影では拡大率が違ったり、DSOでは星像が崩れたりすることが度々ありました。
今回、延長筒を共用しなくなったので、その様な間違いも防ぐことが出来、延長筒の取り外し/取り付けの手間も不要で機材設置が楽になりました。
もう1つは、惑星撮影とDSO撮影時のオートガイド用として使っているASI224MCの接続を1.25”ノーズピースにすることで、以下の事故の再発防止のためです。
詳しくは上の記事を読んでもらうと分かりますが、オートガイド時は1.25”ノーズピース、惑星撮影時はM42のねじ込みだったため、DSO撮影から惑星撮影に切り替える際、ノーズピースを外すつもりがASI224MCの上蓋?を外してしまい、カバーガラスを割ってしまいました。
今回、オートガイド用でも惑星撮影用でも1.25”のノーズピースを付けたままなので、この様な事故は起きないはずです。
この構成は今シーズン最初からだったわけではなく、8月中旬位まではDSO撮影用にKenkoクローズアップレンズを使ったレデューサーの構成を惑星撮影でも使っていた延長筒を色々組み替えながら検討していて、DSO用と惑星用で使う延長筒が被らない様に両者の構成検討を並行して行っていました。そのため、8月中旬までに撮った惑星画像は、拡大率が日によって違っています。
また、機材構成の検討は手持ちのものでやりくりしたので、延長筒などの長さが微妙に足らずスペーサーを入れています。カメラ側のスペーサーは、昨年の拡大率とほぼ同じにするためバローレンズ-カメラ間のバックフォーカス調整です。接眼レンズのスペーサーは、フリップミラーのヘリコイド前に挿入しているM42延長筒が少し短かった分を補うためです。
撮影の度にスペーサーを挿入するのは面倒でしたが、今シーズン使ってみてこの構成で問題なさそうなので、来シーズンまでには延長筒を購入して置き換えるつもりです。
機材の設置
以下が通常の機材設置状況で、写真に向かって左が南側、奥が西側です。視界を出来るだけ確保するため、三脚の2本の脚をベランダ南側にピッタリと寄せていて、東西方向については西側の角部屋なので西寄りに設置しています。
また、なるべく高い高度の被写体でも見える様に、出来るだけ三脚の高さは低くしています。そのため、安易に被写体を自動導入すると鏡筒の角度によってはカメラがベランダの手すりに当たることがあるので、手すりに当たらない位置まで鏡筒の向きを操作してから自動導入の操作を行います。
架台は据え置きではなく毎回設置していますが、極軸合わせはDSO撮影の時しか行わず、惑星撮影のみの日は三脚の方向と水平だけを合わせるだけにしています。DSO撮影時に極軸設定している感じだと、三脚の方向と水平だけ合わせた時の誤差は大きいときで20分を超えるくらいで、5分以内に収まっていることも多い印象です。惑星撮影では撮影中にガイドズレの補正を手動で行っているので、この程度極軸があっていれば今のところ問題はありません。
普段の機材設置の説明はこの位なのですが、木星の衝(11月3日)だけは少し違う設置をしたので少し詳しく説明します。
自宅は集合住宅なので、ベランダの屋根(上階のベランダ)で天頂方向は見えません。今シーズンの木星は高度が高く、南中に近づくとベランダの屋根に隠れてしまいます。木星がベランダからどのように見えるかを図にしてみました。ベランダを上から見ていると思って下さい。
赤い三角部分が上の写真の状態の三脚の位置を示していて、オレンジ色の矢印が木星の動きを示しています。出来るだけ三脚を低くしているつもりでも、この図の様に結構長い間(4時間くらい)見えない時間帯が生じてしまいます。
そして11月3日は木星表面をガニメデが通過するイベントがありましたが、丁度この見えない時間帯でした。これを何とか撮影しようと、この日だけは上図の青い位置に三脚を置き、更に三脚の高さを可能な限り低くしました。言葉では分かり難いので、以下の写真をご覧ください。
左の写真が通常の設置(前出の写真と同じ)で、右の写真が11/3の設置(再現)です。三脚の高さが全然違うのが分かると思います。ベランダが真南を向いていないので、鏡筒が架台の東側にある場合、ベランダ中央の少し張り出した部分に良い感じで鏡筒が納まり、うまい具合に南中過ぎまで木星が見える様になりました。この状態でのベランダの屋根に対する木星の動きは、以下の様な感じです(カメラ側から上に向けて撮った写真で、オレンジの矢印が木星の動き)。
ただ、ここまで三脚の高さを下げると手すりに近づき過ぎるので、撮影終了時刻までに日周運動で機材が壁に当たらないギリギリの位置を探るのに手間取り撮影開始が遅くなりました。ただでさえこの日は外出していて帰宅が遅くなったので、撮影開始時には既にガニメデが木星本体に重なり影を落としていました。
撮影中は、機材が壁に当たらないか屋根でケラレていないかと、ずっと心配しながら横を見たり上を見たりと確認に大忙しでしたが、何とかガニメデの通過が終わるまで撮影することが出来ました。
あと、いつもは三脚を壁に沿わせて設置するのに対し、この時は傾けて設置したので目分量で極軸の方位を合わせました。そのため極軸が大きくズレていた様で、撮影中に木星がどんどん北に動いていきます。ガイドズレは手動補正していますが、あまりに動きが大きいと補正が頻繁になり面倒です。仕方ないので、最初の10数分は撮影しながら木星の移動方向と量を見て極軸のズレを修正しました。そのため、開始10数分までの画像は視野が回転してしまい、処理する際に回転補正をしました。
この様にかなり苦労して撮影・処理した結果なので、前回の記事に載せた動画をしつこく再度掲載します。
撮影の時間帯について
今シーズンは、昨年まであまり行わなかった「空が明るい時間帯の撮影」を何度か行いました。思ったよりちゃんと写ったので、記載しておこうと思います。
まずは今シーズン初めの土星と木星で、7月2日の記事に掲載しています。
土星は5月26日にシーズ初の撮影を行い、木星は6月17日が最初の撮影です。何れも天文薄明開始から1時間以上後に撮ったものです。
どちらも天文薄明過ぎまでDSOを撮影していたので、DSO撮影終了後にカメラ+接眼部の取り換えを行ったためこの時間になったのですが、結構空が明るくてもそれなりに写るんですね。
そして、7月下旬になって金星の内合前の姿を、まだ太陽が出ている時間帯に撮影してみました。
太陽が出ていても、しっかり写っています。その時に水星も撮影しました。
水星は今まで低い高度で撮影していたので、欠けているはずなのに丸く写るという事が多かったのですが、この画像は欠けているのがちゃんと分かります。日が沈んで高度が低くなってから撮影するよりは空が明るくても高度が高い方が良く写ることが分かりました。
ちょっと脱線しますが、金星・水星の2枚目を撮った日(7月29日夕方~30日早朝にかけて)は、こんな組み写真も作りました。
太陽を除いた1週間分の天体です。この中で月以外は空が明るい状態で撮影しています。空が明るくても撮影出来るとなると、撮影の自由度が少し上がります。
但し、太陽がまだ出ている時間帯は、誤って太陽に鏡筒を向けない様に十分に注意が必要ですね。
画像処理
画像処理については、木星の処理について以前記事にしています。
木星以外も大体同じような処理をしていて、違いと言えば、木星はデローテーションをしていますが他の惑星はデローテーションの代わりに加算平均を行っている点でしょうか。
今シーズンになって、処理を変えた部分を2点ほど記載します。
スタック時にDrizzle 1.5xを使用
今年の8月くらいまでは、AutoStakkertでスタックする際にDrizzleは使用していませんでしたが、9月以降に木星の視直径が大きくなりもっと細かい模様まで出せないかという事で、Drizzle1.5xを使う様になりました。
細かい模様を出すという目的以外に、環境変化もあります。惑星撮影を始めた5年前は画面サイズがXGA(1024x768)という手持ちのノートPC、その翌年から中古で買ったWXGA++ (1600x900)のノートPCを使って処理も閲覧もやっていたので、元々の画像サイズ(640x480)で特に問題ありませんでした。2年前に漸くデスクトップPCを組んだ際モニターの解像度もフルHD(1920x1080)にしたので、モニターまでの距離に対して処理画像が小さくなり(老眼も進んだことも手伝って)処理をするのが少しやりづらくなっていました。
Drizzle1.5xの効果については、画素ピッチと光学系の関係もあり解像力という意味ではそう大きくはありません。参考までに、DrizzleなしとDrizzle 1.5の画像を並べて掲載します。
画像の大きさが違うので、比較のためにDrizzleなしを1.5xに拡大しています。
木星はスタックした1枚をほぼ同時刻に処理したためか、強調パラメータは各々違いますが結果は殆ど差が無いように見えます。
土星は一度Drizzle無しで処理したものと後日Drizzleありで再処理したものなので、強調度合いだけでなくトーンカーブや色調も少し違っていて比較しにくいですが、ディテールが出ているのはどちらかと言うと右側の画像かな… という位ですかね。如何でしょうか?
スタックにかかる時間が増える副作用はあるものの、画像サイズが大きくなる分強調処理で使う周波数の選択肢が多少増えて、少し処理がやり易くなったというのが効果しては大きいと思っています(大きな画像を見ながら処理できるので、老眼に優しいという方が大きな効果かも)。
デローテーションとタイムラプス動画生成
これについては、処理を変えたわけではなく架台が経緯台(AZ-GTi)から赤道儀(SA-GTi)に変えたことで以前より楽になったという話です。
経緯台で撮影すると視野回転が起こるため、デローテーションを行う際はWinJUPOSの[画像測定]画面で合成する枚数分だけ角度調整を行う必要があります。位置と大きさは最初の1枚で決まりますが、角度だけは視野回転があるため毎回調整するので手間もかかりますし、誤差も生じてしまいます。
今回は赤道儀なので視野回転がありません。そのため、位置と大きさだけでなく角度も最初の1枚で設定しておけば、後は処理対象ファイルを読み込むだけなので、かなり作業が楽になりました。
因みに、今回からは画面内に衛星が入らない場合は、撮影範囲(ROI)を広げて衛星を入れたものを必ず1セットは撮影する様にしています。その処理画像で大きさと角度を決めておき、最初の1枚で位置を合わせるだけにして、後は画像を読み込むだけです。
そして、最も処理が楽になったのがタイムラプス動画の作成です。昨年は、木星の自転や衛星の動きを動画にする際1枚1枚GIMPを使い角度合わせを行い、その画像保存→動画化という処理だったので、十数枚のフレーム数の動画くらいしか作れませんでした。
今回は回転補正が不要で処理した画像をそのまま動画にするだけなので、一番多いもので54フレームの動画を作ることが出来ました。昨年では考えられなかった枚数です。
昨年の動画を以下に掲載ますので、上に掲載した今シーズンの動画と比べてもらえば赤道儀使用の効果(元画像の枚数の違い)が分かるかと思います。
今になってみれば、AZ-GTiを赤道儀化すれば良かったとちょっと後悔しています。赤道儀化すると経緯台モードにしたときファインダーが使いづらい位置になるので避けていましたが、赤道儀化の恩恵の方が大きかったと思います。
まとめ
今シーズンの惑星撮影について思いついた内容を記載したので、長文になってしまいました。その割に「撮影や処理で苦労した点やトラブル」という内容で以外も多かった気もします。自分にとっては振り返りを兼ねた忘備録という意味で役に立つ内容ですが、読者の方にも参考になることが多少なりともあれば幸いです。
今シーズンの木星
ここ数か月はブログの更新をサボり気味で、今回も2か月弱空いてしまいました。その間、最も多く撮影していたのは、今月の初めに衝を迎えた木星です。10月終盤から数日前まで何度となく撮影し、処理が終わる前に次の撮影という状況でした。未処理のデータはあるものの、この週末で大方の処理が終わりました。木星の観測シーズンが終わった訳ではありませんが、一旦記事にしておきます。
今回の内容
今回の記事は、画像と動画を単に並べ簡単なコメントを記載するだけにしておきます。X(旧Twitter)にも投稿したものが殆どですが、その総集編という感じでまとめてみました。
撮影や処理で苦労した点やトラブルなどを交えた方が読まれる方の参考になるかと思いますが、長文になり時間もかかってしまうので、それらについては後ほど記事にしようと思います(決して書くのが面倒だから後回しという訳ではありません)。
なお、今回の撮影は全て自宅ベランダからなので、掲載している画像や動画の説明に場所の記載は省略しています。
今シーズンベスト画像
最初は今シーズンのベスト画像です。
昨年のベストは大赤斑が写っていたものでしたが、今回のベストは大赤斑の無いこの画像です。シーイングが良い日の画像はどれも大差はないのですが、私の目で見てディテールが一番良く出ていたと思ったのはこの画像でした。
この日はシーイングも非常に良く、眼視でも良く見えて楽しめました。残念ながら翌日が仕事だったので、大赤斑が見える翌10/24の明け方の撮影は断念しました。
ただ大赤斑が無い画像だけでは寂しいので、次点として以下2枚の画像も掲載しておきます。
左は衝の日(11/3)のもので、右は11/15に撮ったものです。何れもベスト画像とは僅差のためか、ブラウザ上で見ると(2枚まとめたので縮小表示されると)こちらの画像の方が良く見えます。大赤斑が写っていることもあり、こちらがベスト画像でも良かったかもしれません。
因みに右の画像ですが、細かい模様が写っている様に見えたのでパラメータを変えて数パターンの処理を試してみました。最終的にいつもより強調度合いをかなり落としてあっさりと仕上げたつもりでしたが、出来上がりを他の画像と並べてみるとそんなに違いは分かりません。
毎年1回はもっと上手くディテールを引き出せないかと思考錯誤するのですが、同じ人が処理すると結局似たような仕上がりになるみたいです。「1つのデータを複数の人で処理して比べる」みたいなことをやると、もっと上手い処理の仕方が見つかるかもしれませんね。
タイムラプス動画
昨年木星の動画を作成し、その面白さに味を占めました。
今シーズンも幾つか動画を作ったので、その中から3本を掲載します。
木星の影に隠れるエウロパ
この日のシーイングはあまり良くなく、特にこの撮影を行った時間帯はかなり木星像が揺らいでいました。その影響でエウロパが写っている元画像8枚中6枚でエウロパの明るさが大きく変動していて、明るさを揃える為に強調度合いやトーンカーブを夫々調整したので、作成には結構時間がかかりました。時期的なものもありますが、際小刻みに変わるシーイングは動画化には難敵ですね。デローテーションにより各時刻の画像を作ってから動画にすると像が安定すると思いますが、この動画では試していません。
木星の手前を通過するガニメデ
撮影機材や撮影条件などは上の動画と同じで、撮影日時は2023/ 11/3 23:25~24:55です。50%stack(1.5x drizzle)した54枚の画像を強調処理した後、PPIPで動画にしXMediaRecodeというソフトでMP4に変換しました。
この日は出掛ける予定があり、ガニメデ通過開始には間に合わず既に木星に影を落としている状態からの動画になってしまいました。
また、昨年の反省を踏まえ出来るだけ同じ時間間隔で撮影を行っていましたが、途中から時間間隔が少し長くなっています。撮影しているノートPCのSSD残量が足らないことに気付いたためですが、出先から帰って急いで撮影を始めたのでSSDの空き容量を考える余裕がありませんでした。
木星の雲の動き
撮影機材や撮影条件などは上の動画と同じです。
この動画を作る前に、一度デローテーション無しの5枚の画像で動画を作成しXに投稿しました。その後、かなり日が空きましたが追加の撮影が出来たので、この動画は更に2枚加えた7枚で作り直しました。その際、WinJUPOSのシミュレーションを使って体系IIの経度(CM2)が同じになる時刻を調べ、その時刻の画像をデローテーションにより生成しました(但し、1枚だけ模様の位置ズレが大きいものがあったので、それだけ時刻を1分半ほど早いものにしています)。
下表が7枚の画像の日時などを一覧にしたものです。
「前の画像との間隔」の列は各画像間の時間間隔(右の列は木星の自転でいうと何回転分に相当するか)で、4枚目と最後の2枚の間隔がかなり空いていることが分かると思います。これだけ間隔が空いているのに、全体としては動きが繋がって見えるのは、南北の赤道縞などの動きが遅い領域が多いためです。コマ送りでよく見ると、赤道帯の動きは間が飛んで繋がっていません。
シーイングが良い日が続いて仕事もなければもっと繋がりの良い動画が作れるのですが、こればかりは無理な話ですね。
それにしても木星は色々と変化が大きいので、動画にすると本当に面白いです。
木星と衛星
上に掲載した中にも衛星が写っているものはありますが、以降は、カメラのROI(Region of Interest:撮影領域)を広げ衛星を入れて撮影したものです。
最初の画像は、上に掲載したガニメデ通過動画の最終フレームと同時刻のものです。右下にあるのはイオで、ガニメデ通過より前の11/3の18:30頃から20:30過ぎ位まで木星の手前を通過していました。今回の衝は、イオとガニメデが木星面を通過するという豪華なおまけ付きだった訳ですが、イオの通過の方は都合が悪くて見られず残念でした。
次の画像は、左側に3つの衛星(ガニメデ、エウロパ、カリスト)が三角形の配置になったものです。もう少し早い時間だと、丁度正三角形だったらしく、事前に調べてなかったので惜しいことをしました。
参考ですが、上の画像の前日はこんな感じでした。
左の3つの衛星が翌日三角形になった訳ではなく、以下の様に移動しています。
まとめ
木星は惑星の中でも視直径が大きいため、惑星向けとしては比較的小口径のMAK127でも静止画・動画共に十分楽しめます(もちろん眼視も)。ただ、木星の撮影で毎回頭を悩ませるのは、撮影データを保存するストレージの容量です。特に動画用に撮影するとなると、容量がどんどん減ってしまいます。
今年はMAK127をDSO撮影でも多用し、特に新月期はDSO撮影の開始前や終了後に惑星を撮っていたので、昨年より撮影数が少ない状況でした。しかし、10月後半の満月期以降は木星の衝と重なり大量に撮影したため、昨年増設した4TBの外付けHDDが11月上旬には一杯になり、今回6TBの外付けHDDを購入してしまいました。
痛い出費ではありますが、例年であればシーイングが悪い日が多くなる時期に、今回11月を過ぎてもシーイングが良い日が多く大量に撮影出来たのは寧ろラッキーだったのでしょう。大容量のHDDも随分安くなったし、撮影も楽しめたので十分元は取れていると思います。
来年、木星の衝はもっと遅い時期になりますが、またストレージ容量で悩まされることになるのでしょうか?…
MAK127でNGC7293(らせん星雲)を撮影
気が付けばもう10月。先月は記事を書かずに終わってしまいましたが、天文活動は行っていて撮影したものが幾つかあります。今回は、その中から先日やっと処理が終わったNGC7293を紹介したいと思います。
今回の撮影
NGC7293は、昨年EVOGUIDE 50EDを使って6時間超の露光時間をかけて撮影しました。
長時間露光のおかげで、自宅ベランダからでもある程度淡い部分まで写し出すことができました。しかし、焦点距離が250㎜と短く1インチのASI533MCPとの組合せでは小さく写り迫力に欠けるので、ブログにはトリミングをして掲載しました。
今回は長焦点で迫力のあるらせん星雲を撮ろうという言事で、MAK127+クローズアップレンズを使って撮影しました。焦点距離は約1,000㎜。ASI533MCPと組み合わせるとNGC7293が丁度いい大きさに写ります。
結果画像
まずは結果画像です。
昨年の撮影と比べると焦点距離は4倍です。狙い通り、非常に迫力のある画像となり、満足のいく結果となりました。ただ、この状態になるまでは、普段とは少し違った処理をしたので、少し説明したいと思います。
露光不足の対応策
説明の前に、普段と違った処理になった理由の1つである露光不足の対策について補足しておきます。
昨年撮影に使った光学系(EVOGUIDE 50ED)はFno.5で、今回の光学系(MAK127+クローズアップレンズ)はFno.8です。昨年の露光時間相当にしようとすると、単純計算で16時間以上の露光が必要になります。
しかし、NGC7293は南中時でも高度が33度ほどです。自宅からだと東から南東にかけて光害の影響を受けるため、南中過ぎから高度が20度位までの間に撮影するとなると、1日に撮影できる時間は長くて2時間程度。16時間を超える露光時間を稼ぐには、8日以上かかることになります。
私は現在週3日のパートなのでフルタイムの方に比べると休みは多いのですが、休日に必ず晴れるわけでもないですし他の天体も撮りたいので、同じ天体を2時間ずつ8日以上撮影するのは現実的ではありません。そこで、今回の画像処理に昨年撮影したものも加えてしまうということを考えました。
焦点距離が4倍も違う画像を加えるためどんな絵になるか心配だったので、最初(8月25日)の撮影の後、様子見で一旦処理してみると特におかしな絵にはなりませんでした。これは行けそうということで、その後9月10日,17日に夫々1時間程撮影を行い3時間半ほど露光時間が稼げたところで天候も安定しなくなったこともあり、画像を仕上げることにしました。昨年の露光時間と単純に足し合わせると、総露光時間は約10時間となります。
画像処理
普段と違う処理は、以下の2つになります。
昨年撮影した画像との合成
ポイントは昨年の撮影と今回の撮影で焦点距離が大きく違う点です。両者を一緒にスタックすることも考えましたが、私が使っているDeep Sky Stacker は焦点距離の差が大きいものはスタック出来ません。自作したソフトも、改良すればスタック出来そうという事は分かりましたが、結構面倒な上に必ずうまく行くとも限りません。
なので、昨年分と今回分で個別に処理し、星無し画像についてのみ昨年分と今回分を合成することにしました。なお、昨年分は改めて処理せず、処理済みのものをそのまま使いました。以下、図を使って説明します。
まず、昨年の画像(昨年処理したデータファイル)を回転・拡大・移動させて、今回撮影した画像に対し位置合わせします(上図①)。次に、今回の撮影データをスタックからStarnet2による星無し画像生成まで行っておきます(上図②)。
そして合成ですが、昨年分の星無し画像は焦点距離が短いため拡大すると解像は粗くなりますが、露光時間が長いので淡い部分まで写っています。一方今回分の星無し画像は、淡い部分は写っていない代わりに写っている明るい部分は焦点距離が長いので昨年分より高解像です。そのため単に加算平均するのではなく、淡い部分と明るい部分で比率を変えて合成しました。
処理としては、昨年の画像(位置合わせ後)にレイヤーマスクを追加し、画像の明るい部分の透過量が多めに、淡い部分の透過量が少なめになるように設定します(上図③)。具体的には、マスクに今回分の画像をコピーし、その輝度値を反転して適当にトーンカーブを調整しています。
説明図だと絵が小さいので、合成前後の画像を大きめの画像で載せておきます。
4倍ほど拡大処理した画像を足し合わせているので、合成後の解像感が低下するのは仕方ありません。しかし、拡大して見ない限り解像の低下はあまり目立たず露光不足はそれなりに補われているので、狙い通りに昨年分と今回分の良いとこ取りになっていると思っています。いかがでしょうか?
2つの色調整画像の合成
色調整は、Wikipediaに掲載されている「らせん星雲NGC7293のハッブル宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の可視光線における合成イメージ」の画像をお手本として行いました。昨年もこの画像の様な色合いにしたいと試行錯誤しましたが、なかなかお手本の様にはなりませんでした。
今回も色々と調整するのですが、いくらトーンカーブを弄っても同じような色合いになりません。周辺部の色がお手本に近付けると中央部が緑っぽくなってしまい、中央部をお手本に近づけようとすると周辺がマゼンタっぽくなってしまいます。以下は、それぞれの画像です。
私はどちらかと言うと左の色合いが好みなので、いつもであれば左の色合いで妥協して仕上げます。しかし、今回は出来る限りお手本に近づけてみたくて、中央部と周辺部のウェイトを変えて左右の画像を合成してみました。
処理としては、上述の合成処理と同様にレイヤーマスクを使って行いました。マスクは上の2つの画像をRGBに分解し夫々のチャンネルを足したり引いたりすることで中央部の領域を作り、適当にぼかしたりコントラストを変えたりしています。以下は処理画面のスクリーンショットで、レイヤー構成の部分を見てもらえばどの様に合成したか分かると思います。
トーンカーブの調整だけではどう頑張ってもお手本の様な色合いにはならないので、今回は敢えていつもはやらない処理を行ってみました。
しかし、エリアによって異なる色調整をするのはちょっと反則な気もしています。なぜなら、そのエリアを画素のレベルにまで細かくすると、お手本画像をコピーしているのと同じになるからです。流石に画素レベルというのはちょっと極端で、そんな処理をすることはありません。また、反則といっても誰に怒られるわけでもないのですが、画像処理を行っているとどこまでやって良いのかいつも気になってしまいます。
まぁ、以前から星と背景という2つのエリアに分けて異なる調整をしている訳ですから、考え過ぎなのかもしれません。
まとめ
今回はいつもと違う2つの処理(「昨年撮影した画像との合成」と「2つの色調整画像の合成」)を行いました。その結果、淡い部分もある程度表現でき色合いもお手本にかなり近いものとなりました。また解像という意味でも、淡い部分が眠くなっていますが明るい部分はそれなりなのでパッと見た感じは悪くありません。
総露光時間は昨年分と今回分の単純合計で約10時間になります。今回の様な処理だと単に足し算で良いのかよく分かりませんが、初の10時間露光によって「長焦点で迫力あるらせん星雲を撮る」という目的が達成でき、満足のいく結果となりました。
お盆休みの撮影(2日目)
前回の記事の続きで、お盆に帰省した時に撮った画像の紹介です。今回は、最終日の2日目(8月13日)について記載します。
2日目の撮影
1日目は設置場所まで電源コードが届かずカメラの冷却が出来なかったので、2日目は使えそうな追加の電源コードを家の中から探し出して、冷却ができることを事前に確認しておきました。
撮影対象もいくつか候補を考えておいて、1日目の機材設置場所では見えない対象に対してどこに機材を設置するか(もちろん電源コードが届くかも含めて)目星を付けておきました。
空の様子ですが、昼間は少し雲が出ていてちょっと心配な感じでしたが、それよりも空が霞んでいるのが気になりました。(鹿児島湾の)対岸を見ると、かなり白っぽくてはっきり見えません。夜になると雲は取れたものの、透明度の方は改善せずあまり良くない感じです。それでも、暗い所に目が慣れると天の川が見えてしまうのでびっくりです。
この日は、食事や所用などを済ませて夜9時頃から機材を設置し、極軸合わせに多少手間取って撮影開始は9時半過ぎからとなりました。翌日は自宅に帰らなければなりませんが出発は夕方で余裕があったため、撮影終了は3時過ぎでトータル約5時間半の撮影となりました。
撮影中に分かったのですが、この日空が霞んでいた原因(の1つ)は桜島の火山灰だった様です。撮影中、ノートパソコンの表面がザラザラしてきました。最初は風があったので地面の灰が吹き上げられたのかと思っていましたが、天気予報を見ると桜島上空の風向きが桜島から実家方面になっていました(鹿児島では天気予報の中で桜島上空の風向きや降灰予想が伝えられます)。普段、夏の時期はあまり実家側には灰は降らないのですが、台風7号の影響でいつもと風向きが違ったのかもしれません。
以下は、撮影終了後にFMA135の対物を撮ったものです。
火山灰が溜まっているのが分かるでしょうか。
こんな感じで若干の火山灰が降る中でしたが、この日撮影した被写体は5つで何れも自宅のベランダからは撮り難い場所にある天体にしました。
撮影結果
1つ目:アンタレス付近
最初に撮影したのは、アンタレス付近です。
アンタレス付近は自宅からでも撮れますが、八月半ばともなると薄明終了時の高度が25度位になるので、既にシーズン終了の時期になっています。鹿児島といえどもこの日の撮影開始時点だと高度は25度程度ですが、実家の西側からだと南西から西にかけてかなり低空まで障害物が少ないので、ここに機材を設置すれば1時間以上は撮影出来そう、ということで撮ってみました。
結果は以下の通りです。
いくら空が暗いと言っても低空で霞んだ空だったため、ちょっと厳しかった様です。また、他の被写体も撮りたいということで露光時間は50分ほどと短いこともあり、かなりノイズが多くカラフルな色もあまり出ませんでした。とは言え、6月に自宅で1時間半をかけて撮ったものよりちゃんと写っています。
6月に書いたブログでは、昨年撮ったものも合わせて処理したものを掲載しました。
今回は、昨年分、6月撮影分、今回分を合わせて処理したものも掲載します。
どうでしょうか、ノイズが多いのはあまり変わりませんが、色はだいぶ濃くなったと思います。今シーズン、この被写体を撮り増しようと思いつつも結局他の被写体ばかり撮っていたので、今回何とか撮り増しが出来て多少マシな画像になりました。
2つ目:彼岸花星雲と出目金星雲
次に撮ったのは、彼岸花星雲(NGC6357)と出目金星雲(NGC6334)です。自宅からでは高度が低く障害物のため撮影できる日時が限られ、撮影できる場合でも電線に引っかかる時間が殆どです。
今回、撮影開始が22時半ころになってしまったので、さすがに鹿児島といえども出目金星雲の高度は15度程です。薄明終了直後から撮影できていればよかったのですが、ちょっと無謀と思いつつも普段は撮れないということで強引に撮影を開始。45分ほど経って高度が10度を切ったところで撮影終了としました。
比較的明るい星雲ということもあり、高度が低く空も霞んでいるという悪条件にもかかわらず何とか形になりました。ノイジーではありますが、元々の空の暗さがあってのことだと思います。
3つ目:網状星雲
次は網状星雲です。こちらも自宅から撮れなくはありませんが、西に傾いてベランダの屋根(上階のベランダ)から出て建物の壁に遮られるまでの1時間弱しか露光時間が確保できない被写体です。(以下の記事参照)
撮影開始は11時半頃で、ちょうど天頂付近に居ました。天頂付近が見易い様に、機材を1日目と同じ場所に移動して撮影開始です。FMA135とスカイメモSの組合せだと移動も楽々ですね。
こちらも、他の被写体も撮りたいということで1時間ほど撮影したところで切り上げました。結果は以下の通りで、ちょっと構図が北に寄り過ぎていました。
もう少し露光時間を掛けて、且つ、フィルターもQBPを使えば良かったかもしれません。この頃は火山灰が降っていることに気付いていたので、フィルターを交換するのは良くないと思いそのまま撮影しました(撮影後に気付いたのですが、そもそもQBPを持って帰るのを忘れていました)。1時間露光でこれだけ写れば十分でしょう。
4つ目: Sh 2-131(ケフェウス座散光星雲)
4つ目はケフェウスの座散光星雲Sh 2-131で、北側にあるため自宅ベランダからは撮影が出来ません。ちょっとした裏技を使って北側の部屋から撮れなくはありませんが、今まで撮影したことがなくこれが初めてです。
かなり露光不足の様で、ザラザラになってしまいました。また、初めての撮影ということもあり、どういう色合いに仕上げればいいのかいまひとつ分かりませんでした。とはいえ、有名は象の鼻星雲(VdB142)も見えており、遠目に見るとまぁまぁそれらしく見えるので、ヨシとしましょう。
しっかり時間をかけて撮影したい対象です。
5つ目: アンドロメダ銀河(M31)
〆は有名なアンドロメダ銀河(我々の世代?だと「アンドロメダ大星雲」)です。
自宅だと、M31の高度が高いうちはベランダの屋根(上階のベランダ)で見えず、高度が下がると建物に隠れるため撮影できないので、一昨年は裏技を使って北側の部屋から同じ鏡筒で撮影しています。自宅との写りの違いを見たいということで、今回撮影してみました。
少し霞んだ空の1時間露光ですが、十分な写りだと思います。一昨年1時間半かけて自宅で撮ったものと比べると若干ノイジーですが、より淡い部分まで炙り出すことが出来ました。流石、暗い空です。
透明度が良ければ、UV/IR-Cutフィルターで撮った方がもっと淡い部分も写ったかもしれません。次に機会があれば試してみたいと思います。
なお、撮影開始の2時ごろはまだ少し東側にあり、1日目と同じ場所だと少し電線に掛かるので2メートルほど機材を移動しています。自宅のベランダだとこういう自由度はありません。実家の庭はそんなに広くはありませんが、マンション暮らしだと庭付き一軒家は憧れです。
まとめ
2日目は5つの被写体を撮影出来ました。若干霞んだ空でしたが元々空が暗い所なので、撮影した画像はその霞みを感じさせない写りでした。やはり空が暗いというのは良いですね。2日間とも、撮影だけでなく肉眼での観察も含め満足できました。
ここ数年は遠征も行っていないので、帰省時の撮影は自分にとって非常に貴重です。ただ、両親は既に他界しているので、お墓参りとお世話になった親戚に会うために帰省しているわけで、天体撮影はあくまでその「ついで」なんですけどね。片道8時間以上かかり疲れるし、元々の出身地ではなく友達がいるわけでもないので、「ついで」だとしても美しい星空を見たり撮ったりという楽しみがあるのは有り難い事です。この様な環境を残してくれた両親に感謝しています。