まだ昨年中に撮影して処理中の画像などもあるのですが、本年最初の記事ですので、本年の初撮りについて記載したいと思います。
実家に置いてある機材について
初撮りは、帰省した実家で行いました。撮影では自宅から持ち帰ったFMA135, ASI533MCPと、実家に置いてある望遠鏡を使いましたので、まずは実家の望遠鏡について記載します。
実家には、天文を始めた小学3年の時に買ってもらった望遠鏡が置いてあります。R-77型という屈折赤道儀(D=76mm, Fl=1,200mm)で、メーカーはアストロ光学工業(株)です。
元々は福岡に住んでいて、父親のリタイアを機に鹿児島に引っ越したのですが、ありがたいことにこの望遠鏡は処分せず鹿児島まで持ってきてくれていました。実家が移転したのは1992年頃で、既に私は天文から離れており、望遠鏡があることは知っていましたが実家でこの望遠鏡を使うことはありませんでした。
それから25年ほど過ぎた2017年の正月に帰省した際、月と金星が接近していたのを見てふと望遠鏡で見たくなり物置小屋から引っ張り出しました。長い間物置に眠っていたのでかなり埃を被っていてレンズに少しカビも生えていましたが、拭き取ってみると十分使えました。大学進学以降使ってなかったので約30年振りにこの望遠鏡で月と金星を見て、天文に夢中だった頃に引き戻された感じで非常に楽しかったのを覚えています。今思うと、これが天文復帰のきっかけの1つでした。
翌年の秋から天文に復帰し、以降は帰省する度にこの望遠鏡を使っています。眼視がメインであとは赤道儀として持ち帰った機材を載せて撮影していましたが、今回はこの鏡筒を使った撮影も行ってみました。
今回撮影したもの
撮影したものは以下になります。
- 月、木星と火星
- 馬頭星雲(&M78)
- ZTF彗星(C/2022 E3)
Light pollution mapによると実家周辺はSQM 21.48となっています。数年前、近くに幾つか商業施設は出来たものの、光害は非常に少なく肉眼で天の川が見えます。せっかくの暗い空なので、帰省の際はDSOをメインに撮影していました。しかし今回は半月を過ぎた月があるため、明け方月が沈んだあとのZTF彗星(C/2022 E3)をメインの被写体と考えていました。ただ、いろいろと都合もあり、撮影できたのは1月4日の明け方1度だけでした。
あと、以前QBPやCBPで撮影したとき燃える木と馬頭星雲の色が思ったような色にならなかったので、月があるのでダメ元ですがUV/IR-cutフィルターで馬頭星雲&M78を撮影しました。
月や惑星はシーイングも悪い時期ということもあり、特に撮ろうとは思ってなかったのですが馬頭星雲を撮影した際に月の影響がかなり大きかったので、他のDSOは無理ということで月、木星、火星も撮影しました。
撮影結果
月
アクロマート対物ですが、色収差も少なくかなり良く写っていると思います。この望遠鏡を買ってもらったのは1974年のはずで、ほぼ半世紀前です。こんなに古い鏡筒でもこれだけ写ることに少し驚きました。
対物に多少の傷と縁にほんの少し欠けがあるだけなので、光学性能上は買った時と大きく変わらないはずですからちゃんと写るのは当たり前なのでしょう。しかし、小学生から高校生にかけてこの鏡筒+フィルムカメラで撮った写真は何れも大したものではなかったので、この鏡筒からこんな高解像の画像が出来てしまう事にどうしても驚きを覚えてしまいます。
参考までに、実家に残っていた中学生の頃に撮影した月と上記画像を並べてみます。
左の画像はプリントされたものをデジカメで撮影したものなので直接比較はできませんが、差は歴然です。改めて、多数フレームをスタックしてウェーブレット強調するという現在のデジタル処理の凄さを実感しました。
木星と火星
撮影は、カメラアダプターに接眼レンズを入れて拡大撮影です。ここでちょっと失敗があり、拡大率が小さすぎました。撮影した画像には衛星も写っていてStellariumの表示と衛星の位置を比較してみたところ、拡大率は1.2x程度とかなり小さい値でした。そのため、AutoStakkertでスタックするときは1.5xのdrizzleで処理し、GIMPで処理する際更に1.33倍(トータルで2倍拡大)して仕上げたものが上の画像になります。
なお、カメラアダプターとASI533MCPは、以下の様に接続しました(写真を撮り忘れたので絵です)。
このアダプターは35mm一眼レフ用なので本来のフランジバックはカメラマウント変換+カメラボディーで50mmちょっとのはずですが、何も考えず上図の様にASI533MCPを取り付けたため、当然ながら拡大率が低くなる訳です。撮影時にやたらと像が小さいなぁと思ってはいましたが、翌日処理している時にフランジバックを延ばせがよかったと気づきました。M42延長筒は持ってきていたのに、翌日の夜には自宅に帰らなければならず結局拡大率を上げた撮影は出来ず仕舞いでした。
また、当日は風が非常に強く、被写体がゴム毬の様に飛び跳ねていました。
この様な悪条件でしたが、処理後の画像はそれなりに良く写っています。この時期にしてはかなりシーイングが良かったのでしょう。そう考えると、低い拡大率で撮影してしまったのがやはり悔やまれます。
月と同様、木星についても中学生の頃に撮った写真が残っていたので並べてみます。
こちらも左の画像はプリントをデジカメで撮影したもので、直接比較はできません。しかし、月の画像と同じくその差は歴然で、左の画像は薄っすらと縞が2本写っているだけなのに対し、右の画像はかなり細かい模様も写っていてとても同じ鏡筒で撮ったものとは思えません。現在のデジタル処理の凄さもありますが、元々の光学性能あってのものです。今更ですが、この鏡筒の性能を見直してしまいました。
馬頭星雲とM78
実家は暗い空とはいえ、月が出ているのでこの手のDSOを撮影するにはちょっと難しい条件です。しかも、撮影時は空が少し霞んでいる感じがしました。多分、桜島の火山灰が舞っていたのだと思います。雲は出てなかったのにフレームごとにバックグラウンドの明るさが微妙に変化していたし、撮影しているとノートPCの表面がザラザラしてきたので多分間違いないでしょう。
以下の写真は1月3日に撮影したものですが、冬の時期は桜島から実家のある大隅半島側に風が吹くので、この写真の様な状態になることがあります。
月と火山灰の影響があった割には、なかなか良く写っているのではないかと思います。もちろん、かなりコントラストが低く写っていたのでだいぶ無理に炙り出し、強めのデノイズも行っています。しかし自宅で撮影したら、月がなくてもUV/IR-cutフィルターだけではこんなに写らないでしょうね。SQM 21.48は伊達じゃない... といったところでしょうか。
さて、馬頭星雲と燃える木の色の差ですが、昨年CBPで撮影したものと比べてみます。
CBPに比べると、UV/IR-cutは燃える木が黄色っぽくなり馬頭星雲との色の差が大きくなっていることが分かると思います。また、馬頭星雲の色もCBPは濃い赤オレンジなのに対し、UV/IR-cutは少し薄くマゼンタです。ブロードバンドだと「黄色っぽい燃える木とマゼンタっぽい馬頭星雲」が得られるということが良くわかりました。
一応補足ですが、左の画像は以前の記事に「実家で16分露光した画像」として馬頭星雲部分のみ切り出して載せていました。
その時の画像は燃える木とそれ以外の領域でカラーバランスを変えたので、色合いはもう少し右の画像に近いものでした。今回は比較のために、カラーバランスを変える前の画像を掲載しました。
ZTF彗星(C/2022 E3)
処理した画像は以下になります。イオンテールも写るのではないかと期待していましたが、そこまでは写りませんでした。
月は沈んだ後なので影響はありません。風向きが良かったのか、火山灰の影響はなく特に空が霞んだ感じはしませんでした。風は非常に強かったものの条件としてはそんなに悪くないのですが、1つ落とし穴がありました。それは電線です。
撮影は少し高度が高くなる4時半ころから薄明が終わる6時頃まで行いました。しかし実家の庭からだと、ZTF彗星はちょうど電線が集中しているあたりの位置になります。電線を避けようとすると、赤道儀のモーターの電源が取れないのです。なんせ、R-77はシンクロナスモーターのため家庭用の100V/60Hz交流電源が必要で、屋外コンセントから延長ケーブルが届く範囲でないといけないのです。これは誤算でした。もっと長い電源ケーブルか、AC出力があるモバイルバッテリーを用意できれば良かったのでしょうが、被写体との位置関係がちゃんと把握できておらず、気にはなっていましたが大丈夫じゃないかと甘く見ていました。
以下の左画像は、フラット補正する前のものをコントラスト強調したものです。
電線が何本も写っていることが分かります。また、右画像は電線基準?でモザイク合成したもので、10本の電線越しに撮影したことが分かると思います。更にその電線も、お隣さんの外灯に照らされて明るいんですよね。
この様な状況だったので露光時間は90分と長めにしましたが、彗星付近に電線が被っているフレームと、赤道儀自体の追尾誤差や風により使えないフレームが予想以上に多く、結局使えたフレームは60/180でした。露光時間が思ったように確保できずバックグラウンドには電線の濃淡があるという状況なので、淡い部分が炙り出せないのは仕方ないですね。それでも、自宅のベランダからは撮れない方角にあるので、撮れただけでも良かったです。
まとめ
馬頭星雲は月と火山灰の影響、ZTF彗星は風と電線の影響で今一つの結果でした。しかし馬頭星雲と燃える木の色の差とフィルターの関係は確認ができ、ZTF彗星もとりあえずその姿を写すことはできました。当初の目的は達成できたと言っていいでしょう。
また、今回は実家に置いてある望遠鏡で月や惑星を撮影し、思った以上に良い画像が得られました。同じ光学系で撮影した中学生の頃の写真とは比較になりません。現在のデジタル処理の凄さを実感しつつも、半世紀ほど前の鏡筒の性能を改めて見直すことができた良い機会になりました。今までの帰省ではR-77は眼視がメインでしたが、月や惑星の撮影でも使えることが分かったのは収穫でした。
そして、小学3年生だった私にこの様な望遠鏡を買ってくれた両親に非常に感謝しています。この望遠鏡でお天文の趣味を楽しめたという意味だけでなく、この望遠鏡を通して光学系に興味を持ったことで光学系開発に関わる仕事に就くことが出来ました。会社は早期退職しましたが、仕事で得た知識が今度は今の天文活動に活用できているので、この望遠鏡の恩恵は計り知れません。両親は既に亡くなっていますが、生きているときにもっとお礼を言っておけばよかったかな…。