Star Adventurer GTi を購入しました

昨年末にStar Adventurer GTiを予約して、1月20日の発売翌日に到着しました。早速使ってみたかったのですが、その後数日は天候と自分の都合が合わず、部屋に置いたまま実践投入はお預け状態でした。

1月末にようやく撮影できるタイミングがあり数回使用してみましたので、感想や撮影した画像の紹介をしたいと思います。

なお、既に所有している架台がスカイメモSやAZ-GTiなので、主にそれらと比較しての記載になっています。また、“Star Adventurer GTi” と記載すると長くなるので、以降は「この架台」または「SA-GTi」と表記します。

手持ち鏡筒との組み合わせ

以下は、最近よく撮影で使っている“EVOGUIDE 50ED+ASI533MCP”&“FMA135+ASI224MC” との組み合わせです。

写真左は付属のウェイトをつけた状態です。この場合、本体とぶつかる位置でしかバランスがとれないため、ウェイトシャフトを低緯度用の穴にセットする必要があります。

写真右は、追加で購入したVixenの1kgのウェイトをつけた状態です。これだと高緯度用の穴にシャフトを入れた状態でバランスが取れます(ほんの少し重量不足なので、重り代わりのものを若干付加)。低緯度用の穴だとシャフトが前に飛び出し狭いベランダでは使いにくいので、右の状態で運用中しています。

次はMAK127との組み合わせです。

長い焦点距離はこの架台の対象外だと思いますが、AZ-GTiでもMAK127で撮影していたので、この架台でもMAK127を載せることも考えていました。

実際載せてみると、惑星撮影仕様(フリップミラーとカメラ(ASI224MC)などを付けた状態)だと、付属のウェイトを一番下までもっていけば若干ウェイトは不足するものの何とか使える範囲です。しかし、DSO撮影仕様にすると、カメラがASI533MCPと重くなり更にガイド鏡(FMA135+ASI224MC)が載るので付属のウェイトでは不足です。1kgのウェイトを追加すること、ちょうどバランスが取れるようになりました。搭載可能重量は約5kgとなっているので、この構成でも少し余裕があります。

室内での持ち運び

私は普段、鏡筒やウェイトを付けた状態で三脚に載せ、部屋に置きっぱなしにしています。そして、ベランダに設営する際は、温度順応のために鏡筒だけ(スカイメモSを使うときは、赤緯体+ウェイトも)を20~30分前にベランダに出しておいて、その後三脚に付けたままの架台と、ノートPC、ケーブル等の小物.. などを両手に抱え、部屋とベランダを2、3往復して持ち出します。

スカイメモSやAZ-GTiは軽いのでこのような運用を行っている訳ですが、この架台も本体重量が3kg弱と軽いので、ウェイトと鏡筒がなければ本体を三脚に載せたまま片手で持ち運べます。やはり、小型軽量というのは良いですね。

外部バッテリー

以下の写真は、スカイメモSやAZ-GTiで使っているモバイルバッテリーで、AZ-GTiを使うときは写真右の昇圧器(DC-DCコンバーター)を使っています。

バッテリーはTSUTAYAで売っていた3250mAh@5Vのもので、2.1Aの出力ポート側に昇圧器を接続します。昇圧器はAmazonで適当に選んで購入したもので、9Vと12Vの切替えがあり普段は9Vで使っていて、AZ-GTiであれば二晩以上は持ちます。

この架台でもこの組み合わせで問題なく使えました。
ただ、AZ-GTiで使うときと1つ違うのは、AZ-GTiの場合電源投入にはお作法があり、まず電源スイッチをOnにして、そのあとDCコネクタを挿し、バッテリーのUSBコネクタを挿す、という順番でないとうまく起動しません。自分が持っている個体とバッテリーやケーブルの組み合わせが原因かもしれませんが、一度電源を切る必要がある時などはちょっと面倒でした。
しかし、この架台は特にこういう順番はなく、バッテリーとの接続したままスイッチをOn/Offしても問題なく使えます。細かいところですが、使いやすくなっています。

PCとの接続など

私はAZ-GTiの操作をノートPCで行っています。ただ、使っているノートPCはWi-Fiモジュールの調子が悪く、時折Wi-Fiが切れAZ-GTiの操作ができないことが短時間ですが発生していました。一方、この架台にはUSBケーブルによるシリアル接続が出来るので安心です。

また、スカイメモSの場合、オートガイドケーブルを繋ぐ必要がありますが、この架台だとASCOM経由でオートガイドできるので、ケーブルが1つ少なくて済みます。手持ちのオートガイドケーブルはかなり硬く、取り回しによってはガイドに影響しているのではないかと思っています。なので、ケーブルが1つ減るのは嬉しいです。

SynScan Pro をはじめ、PHD2 や Stellarium、N.I.N.A.(Nighttime Imaging 'N' Astronomy)など、いつも使っているソフトとの接続については、特に不具合などはありませんでした。

極軸合わせ

普段撮影しているベランダからは北極星が見えません。SA-GTiはSynScan Proにある北極星が見えなくても極軸合わせする機能が使えますが、1スターアライメントでは使えません。ベランダだと視界の関係で1スターアライメントしか出来なことが多いので、今のところはN.I.N.A. のThree Point Polar Arignment を使っています。

スカイメモSではThree Point Polar Arignmentをマニュアルモードで使っていますが、この架台は自動導入機なので、3回(Three Point)の撮影が自動で行えます。しかも、鏡筒を動かしたあとに振動などが収まるまでの時間待ちも行ってくれるので、非常に楽です。

アライメント中の高度,方位の調整も、スカイメモSよりやり易いですね。どちらも調整ネジの回転量に対する移動量がスカイメモSより少ない様で、特に高度調整は可動部の構造の違いもあり非常にスムーズに感じます。ただ、高度UPからDownに切り替える時は多少ガクンと動きますが、それは構造上やむを得ないと思います。あと、高度調整後の固定は、両側をネジで締めるタイプなので安定感があります。
スカイメモSと比べるとかなりやり易く、極軸合わせの時間が半分位で済む感じです。

撮影した画像の紹介

だいぶ文字が多くなってきたので、この辺で撮影した画像を紹介したいと思います。撮影はこれまで4日行っています。そのうち3日分を掲載します。

最初に1/29に撮影したM44とM67です。

M44: 撮影 2023/1/29 3:21 @自宅ベランダ
EVOGUIDE 50ED+フラットナー, ASI533MCP, UV/IR-Cut, SA-GTi
Gain 300,Temp -15℃, Exposure 300s×3
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理

M67: 撮影 2023/1/29 3:59 @自宅ベランダ
EVOGUIDE 50ED+フラットナー, ASI533MCP, UV/IR-Cut, SA-GTi
Gain 300,Temp -15℃, Exposure 300s×8
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理

まずは、最近よく使っている鏡筒で使用感を確認したかったのでEVOGUIDE 50EDを使いましたが、撮影を始めた時間が遅くめぼしい被写体がなかったので、あまり撮影しない散開星団を撮ってみました。ちょっと地味な感じだったので、出来るだけ彩度を上げて明るい星を少し大きめに仕上げてみました。

それはさておき肝心の追尾状況ですが、この日は露出を5分と長めにしてみました。追尾誤差等の詳細は後述するとして、数フレームに1枚少し大きめに星が流れる場合がありました。この日の歩留まりは75%ほどで、数字としてはスカイメモSより悪いのですが、スカイメモSで5分露出にすると1軸追尾なので極軸に誤差があると赤緯方向に流れてしまうため、普段は長くても3分露出で撮っていました。それを考えると、そう悪くない歩留まりにも思えます。

次は2/6に撮影したNGC3242、M104です。
この日は満月前の月が明るい中、MAK127+KenkoクローズアップレンズNo.5(fl≒1100mm)でM104を撮影しようとしていました。しかし、この架台は赤経軸の可動範囲が限られています。撮影しようと思った時間は開始直後に子午線反転が必要になるタイミングで、短時間で子午線反転させるのを避けるため、その時間待ちで撮影したのがNGC3242になります。

NGC3242: 撮影 2023/2/6 1:53 @自宅ベランダ
MAK127+クローズアップレンズNo.5, ASI533MCP, UV/IR-Cut, SA-GTi
Gain 350,Temp -15℃, Exposure 16s×29
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理
3008x3008から中央部1200x1200をクロップ

M104: 撮影 2023/2/6 2:39 @自宅ベランダ
MAK127+クローズアップレンズNo.5, ASI533MCP, UV/IR-Cut, SA-GTi
Gain 250,Temp -10℃(露光15分後以降バッテリー切れで非冷却), Exposure 32s×102
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理

この焦点距離だと、流石に追尾エラーが目立ちます。NGC3242は16秒露出、M104は32秒露出としましたが、かなり甘くみて2割ほどのフレームは使えませんでした。
以前、AZ-GTi(経緯台モード)で撮影していた時は、オートガイドしてなかったこともあり8秒露出でも歩留まりが60%前後で、悪いときは50%を切っていました。それに比べると、30秒露出でも歩留まりは良いのでだいぶ安定感はあります。ただ、繰り返しになりますがかなり甘く見ての話で、厳しめにみると40%を切ると思います。さすがにこれだけ長い焦点距離だと、本来はこの架台の対象範囲外でしょうね。

最後に2/9に撮影したM50です。

M50: 撮影 2023/2/9 22:44 @自宅ベランダ
EVOGUIDE 50ED+フラットナー, ASI533MCP, UV/IR-Cut, SA-GTi
Gain 100, Temp 1~3℃(非冷却), Exposure 120s×16
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理

こちらも今までで撮ったことのないメシエ天体ということで撮影しましたが、M48より更に地味ですね。

スカイメモSでの撮影でよく使う2分露光にしてみましたが、この日は赤経方向に少し星が流れてしまいました。ガイドグラフの暴れ方はその前の撮影とあまり変わらないのですが、極軸の誤差なのでしょうか。とは言え、等倍で見なければあまり分かりません。

追尾精度

では、追尾精度を少し詳しく見てみたいと思います。比較対象はスカイメモSです。
最初に、PHD2オートガイドした時のログ(何れも2/5に撮影)をPHD2 Log Viewerで表示して比べてみます。

まず、SA-GTiのものです。

次に、スカイメモSです。

スカイメモSは1軸ガイドなのでRA方向についてですが、全体的に見ると似たような感じでしょうか。そのため、ガイドエラーのRMS値は両者似たようなものです。しかし、よく見るとピーク値はSA-GTiの方が大きな値になっています。他の日のログを見ると多少違う傾向が見られるものもありまずが、総じてこんな感じになっていました。

SA-GTiで気になる点は、ガイドエラーごく短時間急増する(脈を打つ)部分が所々ありその絶対値が大きいという事です。スカイメモSもガイドエラーが脈を打つ所がありますが、SA-GTi程は大きくありません。また、SA-GTiのガイドエラーが脈打つ部分は、周期的に発生している様に見えます。下の図は、分かり易いようにRAだけを表示させ、脈打つ部分の間隔を分かり易く示したものです。

この様な見方をしてみると約8分周期と言えそうで、この架台のウォームホイル歯数が180枚なので丁度ピリオディックモーション(以降PMと記載)の1周期に当たります。なので、PMを見るとこの原因が分かるのではないかと思い、測定してみることにしました。

測定は、極軸合わせしたあとに方位だけを適当にずらし、天の赤道付近で南中近くのエリアを数十分ノータッチガイドで追尾、ShapCapでアライメント無しでライブスタックし、その画像から星の軌跡が何画素相当かを読み取って角度誤差に換算しました。角度換算に使用した1画素相当の角度は、同じ機材で撮影した画像をプレートソルブした結果を使用しました。そして、PMの値は、撮影した3周期分の山/谷のそれぞれの平均値としました。
他に、Sinカーブでフィッティングした時の振幅から求めた値と、3周期の最大/最小値から求めた値も結果に記載しています。

まずは、この架台の結果です。

SA-GTiのピリオディックモーション: 2/5撮影
光学系はEVOBUIDE 50ED+フラットナー、カメラはASI533MCP
左上の画像は左右が南北方向で適当にストレッチ&トリミングしたもの
右上のグラフは星の軌跡を数値化したもの
下のグラフはその傾きを補正しPMの値を算出したもの。

この架台のPMは±30”程度でした。しかし、不規則に動く部分が存在していて、このグラフの範囲だとSinカーブの底の部分に顕著に3連続で現れています。どうやら周期的なガイドエラーはこれが原因の様です。

一方、スカイメモSのPMは以下の通りです。

スカイメモSのピリオディックモーション: 2/5撮影
機材等はSA-GTiのものと同じ

こちらのPMもSA-GTiと同じく約±30”でした。若干不規則な部分もありますが、SA-GTiほどの大きさではありません。ガイドグラフが全体的にSA-GTiと似たような精度で、誤差のピーク値がSA-GTiより小さいという状況をそのまま表していると言って良いと思います。

もし、不規則な部分が無いようであれば、PMは上記グラフに示したSin近似した値に近づくと思われます。その振幅だとSA-GTiは±25”程度、スカイメモSは±29”程度となり、基本的なポテンシャルとしてはSA-GTiの方が若干精度は良いと推測されます(もちろん、この個体同士を比較した場合です)。

この結果を出したあと、PMの測定はこのやり方で良かったのか確認するためGoogleで検索してみました。と言うのも、前述のやり方は、ドリフト法で極軸合わせを行った経験と、以前スカイメモSのPMを簡易的に求めた時の経験から考えたものなので、一応ちゃんと確認しておこうと思ったためです。
そして、検索結果の最初に上がってきた吉田隆行さんのサイト(以下のリンク先)を主に参考にさせて頂きました。

ryutao.main.jp

特にやり方自体は間違ってなかった様です。ただ、水平方向のずらし量は30分角程度とありました(他の方のブログ等にもう少し大きな値の記載もありましたが、さすがに “適当”と書かれたものは無いですね…)。
また、「離隔のはっきりした二重星を撮影」という事も書かれていました。確かに、プレートソルブで1画素当たりの角度を求めると光学系のディストーションの影響などもあって、微小な角度を云々するには誤差が出てしまう気がします。一応、確認のため同日同じ機材撮った月の画像から画面中心付近の1画素当たりの角度を求めてみて、この光学系だとそんなに誤差はなかったことは確認しました。

あと、PMの不規則な部分の原因や、PMの改善方法など、色々な記載があり、非常に参考になりました。その中で「エイジング」についても記載されていて、この架台で有効かどうかは分かりませんが、ギアが馴染むと不規則な部分が少し改善されないかと思い少し試しているとろです。

ほかにも、他の方のブログや企業のホームページなど幾つかの記事を読ませていただき、大変参考なりました。最初にちゃんと調べておけば良かったのでしょうが、それは置いておいて、このように先人の方々の知識が簡単にWeb上で見られるのは、本当に助かりますね。

まとめ

SA-GTiは、手持ちのスカイメモSとAZ-GTiと同じ手軽さで使うことが出来ます。追尾精度もスカイメモSと同等以上(多分、基本的には精度は高そう)で、搭載可能重量もアドバンテージがあり、何といっても自動導入が出来ます。そして、細かい部分もスカイメモSやAZ-GTiに比べ使いやすくなっています。

SA-GTiがスカイメモSの同等(同一)品である“Star Adventurer”の延長線にあると考えれば納得といったところですが、これが税込み8諭吉弱で買えるのですからコストパフォーマンスは非常に高いですね。数日しか使っていませんが、十分満足しており購入してよかったと思っています。