今シーズンの惑星撮影について

前回、今シーズンの木星について記事にした際、「撮影や処理で苦労した点やトラブルなどについて後々記事にする」と記載していました。

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1ケ月ほど過ぎてしまいましたが、今回それらに関して木星以外の惑星撮影も含めて記事にしてみました。

惑星撮影の機材構成

惑星撮影は、以下の機材で行っています。

  • 光学系:Sky-Watcher MAK127,笠井トレーディングFMC3枚玉2.5xショートバロー31.7mm,UV/IR-cutフィルター
  • カメラ:ZWO ASI224MC
  • 架台:Sky-Watcher Star Adventurer GTi(メイン),AZ-GTi(サブ)
  • その他:AstroStreet フリップミラーM42延長筒など

昨年までと違う所の1つは架台で、今年初めに購入したStar Adventurer GTi(以後SA-GTiと記載)をメインで使用する様になりました。

もう1つ変えた所はカメラ接続部の延長筒の構成で、以下がその写真です。

以前の構成は昨年の記事に記載しています。

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架台は経緯台から赤道儀に変わったというだけなので、カメラ接続部分について少し詳しく記載します。

大きく変えた所は、バローレンズを入れているM42延長筒とカメラの間になります。昨シーズンはここにUV/IR-cutフィルターを入れたM42延長筒(長さ21mm)を入れてカメラと接続していました。シーズン途中でM42延長筒とカメラの間に更に延長筒を追加し、最終的にバローレンズ⇔カメラ間を36mmと元々のバローレンズの倍率である2.5xの拡大率で運用していました。

今シーズンはカメラ側に1.25”のノーズピースを付け、バローレンズを入れているM42延長筒の後にはフリップミラーに付属していたM42-1.25”アダプターと、約6mm厚のスペーサーという構成にしました。

この構成にした理由は2つありあります。

1つは、DSO撮影と惑星撮影でM42延長筒を共用していて、撮影の度に延長筒を取り換える必要があったのでこれを専用化しました。延長筒を共用していると、撮影の期間が空いた時にどの延長筒を使うか忘れてしまい、間違った延長筒を組付けて補正光学系以降のバックフォーカスが変わり、惑星撮影では拡大率が違ったり、DSOでは星像が崩れたりすることが度々ありました。
今回、延長筒を共用しなくなったので、その様な間違いも防ぐことが出来、延長筒の取り外し/取り付けの手間も不要で機材設置が楽になりました。

もう1つは、惑星撮影とDSO撮影時のオートガイド用として使っているASI224MCの接続を1.25”ノーズピースにすることで、以下の事故の再発防止のためです。

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詳しくは上の記事を読んでもらうと分かりますが、オートガイド時は1.25”ノーズピース、惑星撮影時はM42のねじ込みだったため、DSO撮影から惑星撮影に切り替える際、ノーズピースを外すつもりがASI224MCの上蓋?を外してしまい、カバーガラスを割ってしまいました。
今回、オートガイド用でも惑星撮影用でも1.25”のノーズピースを付けたままなので、この様な事故は起きないはずです。

この構成は今シーズン最初からだったわけではなく、8月中旬位まではDSO撮影用にKenkoクローズアップレンズを使ったレデューサーの構成を惑星撮影でも使っていた延長筒を色々組み替えながら検討していて、DSO用と惑星用で使う延長筒が被らない様に両者の構成検討を並行して行っていました。そのため、8月中旬までに撮った惑星画像は、拡大率が日によって違っています。

また、機材構成の検討は手持ちのものでやりくりしたので、延長筒などの長さが微妙に足らずスペーサーを入れています。カメラ側のスペーサーは、昨年の拡大率とほぼ同じにするためバローレンズ-カメラ間のバックフォーカス調整です。接眼レンズのスペーサーは、フリップミラーのヘリコイド前に挿入しているM42延長筒が少し短かった分を補うためです。
撮影の度にスペーサーを挿入するのは面倒でしたが、今シーズン使ってみてこの構成で問題なさそうなので、来シーズンまでには延長筒を購入して置き換えるつもりです。

機材の設置

以下が通常の機材設置状況で、写真に向かって左が南側、奥が西側です。視界を出来るだけ確保するため、三脚の2本の脚をベランダ南側にピッタリと寄せていて、東西方向については西側の角部屋なので西寄りに設置しています。

また、なるべく高い高度の被写体でも見える様に、出来るだけ三脚の高さは低くしています。そのため、安易に被写体を自動導入すると鏡筒の角度によってはカメラがベランダの手すりに当たることがあるので、手すりに当たらない位置まで鏡筒の向きを操作してから自動導入の操作を行います。

架台は据え置きではなく毎回設置していますが、極軸合わせはDSO撮影の時しか行わず、惑星撮影のみの日は三脚の方向と水平だけを合わせるだけにしています。DSO撮影時に極軸設定している感じだと、三脚の方向と水平だけ合わせた時の誤差は大きいときで20分を超えるくらいで、5分以内に収まっていることも多い印象です。惑星撮影では撮影中にガイドズレの補正を手動で行っているので、この程度極軸があっていれば今のところ問題はありません。

普段の機材設置の説明はこの位なのですが、木星の衝(11月3日)だけは少し違う設置をしたので少し詳しく説明します。
自宅は集合住宅なので、ベランダの屋根(上階のベランダ)で天頂方向は見えません。今シーズンの木星は高度が高く、南中に近づくとベランダの屋根に隠れてしまいます。木星がベランダからどのように見えるかを図にしてみました。ベランダを上から見ていると思って下さい。

赤い三角部分が上の写真の状態の三脚の位置を示していて、オレンジ色の矢印が木星の動きを示しています。出来るだけ三脚を低くしているつもりでも、この図の様に結構長い間(4時間くらい)見えない時間帯が生じてしまいます。

そして11月3日は木星表面をガニメデが通過するイベントがありましたが、丁度この見えない時間帯でした。これを何とか撮影しようと、この日だけは上図の青い位置に三脚を置き、更に三脚の高さを可能な限り低くしました。言葉では分かり難いので、以下の写真をご覧ください。

左の写真が通常の設置(前出の写真と同じ)で、右の写真が11/3の設置(再現)です。三脚の高さが全然違うのが分かると思います。ベランダが真南を向いていないので、鏡筒が架台の東側にある場合、ベランダ中央の少し張り出した部分に良い感じで鏡筒が納まり、うまい具合に南中過ぎまで木星が見える様になりました。この状態でのベランダの屋根に対する木星の動きは、以下の様な感じです(カメラ側から上に向けて撮った写真で、オレンジの矢印が木星の動き)。

ただ、ここまで三脚の高さを下げると手すりに近づき過ぎるので、撮影終了時刻までに日周運動で機材が壁に当たらないギリギリの位置を探るのに手間取り撮影開始が遅くなりました。ただでさえこの日は外出していて帰宅が遅くなったので、撮影開始時には既にガニメデが木星本体に重なり影を落としていました。

撮影中は、機材が壁に当たらないか屋根でケラレていないかと、ずっと心配しながら横を見たり上を見たりと確認に大忙しでしたが、何とかガニメデの通過が終わるまで撮影することが出来ました。

あと、いつもは三脚を壁に沿わせて設置するのに対し、この時は傾けて設置したので目分量で極軸の方位を合わせました。そのため極軸が大きくズレていた様で、撮影中に木星がどんどん北に動いていきます。ガイドズレは手動補正していますが、あまりに動きが大きいと補正が頻繁になり面倒です。仕方ないので、最初の10数分は撮影しながら木星の移動方向と量を見て極軸のズレを修正しました。そのため、開始10数分までの画像は視野が回転してしまい、処理する際に回転補正をしました。

この様にかなり苦労して撮影・処理した結果なので、前回の記事に載せた動画をしつこく再度掲載します。

木星を横切るガニメデ: 撮影 2023/11/3 23:25~24:55, 54枚の画像を使用

撮影の時間帯について

今シーズンは、昨年まであまり行わなかった「空が明るい時間帯の撮影」を何度か行いました。思ったよりちゃんと写ったので、記載しておこうと思います。

まずは今シーズン初めの土星木星で、7月2日の記事に掲載しています。
土星は5月26日にシーズ初の撮影を行い、木星は6月17日が最初の撮影です。何れも天文薄明開始から1時間以上後に撮ったものです。

土星(左):撮影 2023/5/26 3:51,木星(右):撮影 2023/6/17 3:58

どちらも天文薄明過ぎまでDSOを撮影していたので、DSO撮影終了後にカメラ+接眼部の取り換えを行ったためこの時間になったのですが、結構空が明るくてもそれなりに写るんですね。

そして、7月下旬になって金星の内合前の姿を、まだ太陽が出ている時間帯に撮影してみました。

左: 撮影 2023/7/26 17:58,右: 撮影 2023/7/29 18:34

太陽が出ていても、しっかり写っています。その時に水星も撮影しました。

左:撮影 2023/7/26 17:54,右:撮影 2023/7/29 18:48

水星は今まで低い高度で撮影していたので、欠けているはずなのに丸く写るという事が多かったのですが、この画像は欠けているのがちゃんと分かります。日が沈んで高度が低くなってから撮影するよりは空が明るくても高度が高い方が良く写ることが分かりました。

ちょっと脱線しますが、金星・水星の2枚目を撮った日(7月29日夕方~30日早朝にかけて)は、こんな組み写真も作りました。

月・火星・水星・木星・金星・土星

太陽を除いた1週間分の天体です。この中で月以外は空が明るい状態で撮影しています。空が明るくても撮影出来るとなると、撮影の自由度が少し上がります。

但し、太陽がまだ出ている時間帯は、誤って太陽に鏡筒を向けない様に十分に注意が必要ですね。

画像処理

画像処理については、木星の処理について以前記事にしています。

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木星以外も大体同じような処理をしていて、違いと言えば、木星はデローテーションをしていますが他の惑星はデローテーションの代わりに加算平均を行っている点でしょうか。

今シーズンになって、処理を変えた部分を2点ほど記載します。

スタック時にDrizzle 1.5xを使用

今年の8月くらいまでは、AutoStakkertでスタックする際にDrizzleは使用していませんでしたが、9月以降に木星の視直径が大きくなりもっと細かい模様まで出せないかという事で、Drizzle1.5xを使う様になりました。

細かい模様を出すという目的以外に、環境変化もあります。惑星撮影を始めた5年前は画面サイズがXGA(1024x768)という手持ちのノートPC、その翌年から中古で買ったWXGA++ (1600x900)のノートPCを使って処理も閲覧もやっていたので、元々の画像サイズ(640x480)で特に問題ありませんでした。2年前に漸くデスクトップPCを組んだ際モニターの解像度もフルHD(1920x1080)にしたので、モニターまでの距離に対して処理画像が小さくなり(老眼も進んだことも手伝って)処理をするのが少しやりづらくなっていました。

Drizzle1.5xの効果については、画素ピッチと光学系の関係もあり解像力という意味ではそう大きくはありません。参考までに、DrizzleなしとDrizzle 1.5の画像を並べて掲載します。

左:Drizzleなし、右:Drizzle 1.5x(何れもデローテーション前の1枚画像)

左:Drizzleなし、右:Drizzle 1.5x(何れも5枚加算平均画像)

画像の大きさが違うので、比較のためにDrizzleなしを1.5xに拡大しています。

木星はスタックした1枚をほぼ同時刻に処理したためか、強調パラメータは各々違いますが結果は殆ど差が無いように見えます。

土星は一度Drizzle無しで処理したものと後日Drizzleありで再処理したものなので、強調度合いだけでなくトーンカーブや色調も少し違っていて比較しにくいですが、ディテールが出ているのはどちらかと言うと右側の画像かな… という位ですかね。如何でしょうか?

スタックにかかる時間が増える副作用はあるものの、画像サイズが大きくなる分強調処理で使う周波数の選択肢が多少増えて、少し処理がやり易くなったというのが効果しては大きいと思っています(大きな画像を見ながら処理できるので、老眼に優しいという方が大きな効果かも)。

デローテーションとタイムラプス動画生成

これについては、処理を変えたわけではなく架台が経緯台(AZ-GTi)から赤道儀(SA-GTi)に変えたことで以前より楽になったという話です。

経緯台で撮影すると視野回転が起こるため、デローテーションを行う際はWinJUPOSの[画像測定]画面で合成する枚数分だけ角度調整を行う必要があります。位置と大きさは最初の1枚で決まりますが、角度だけは視野回転があるため毎回調整するので手間もかかりますし、誤差も生じてしまいます。

今回は赤道儀なので視野回転がありません。そのため、位置と大きさだけでなく角度も最初の1枚で設定しておけば、後は処理対象ファイルを読み込むだけなので、かなり作業が楽になりました。

因みに、今回からは画面内に衛星が入らない場合は、撮影範囲(ROI)を広げて衛星を入れたものを必ず1セットは撮影する様にしています。その処理画像で大きさと角度を決めておき、最初の1枚で位置を合わせるだけにして、後は画像を読み込むだけです。

そして、最も処理が楽になったのがタイムラプス動画の作成です。昨年は、木星の自転や衛星の動きを動画にする際1枚1枚GIMPを使い角度合わせを行い、その画像保存→動画化という処理だったので、十数枚のフレーム数の動画くらいしか作れませんでした。
今回は回転補正が不要で処理した画像をそのまま動画にするだけなので、一番多いもので54フレームの動画を作ることが出来ました。昨年では考えられなかった枚数です。

昨年の動画を以下に掲載ますので、上に掲載した今シーズンの動画と比べてもらえば赤道儀使用の効果(元画像の枚数の違い)が分かるかと思います。

木星の自転と衛星(イオ)の動き: 撮影 9/27 0:04~1:12, 11枚の画像を使用

今になってみれば、AZ-GTiを赤道儀化すれば良かったとちょっと後悔しています。赤道儀化すると経緯台モードにしたときファインダーが使いづらい位置になるので避けていましたが、赤道儀化の恩恵の方が大きかったと思います。

まとめ

今シーズンの惑星撮影について思いついた内容を記載したので、長文になってしまいました。その割に「撮影や処理で苦労した点やトラブル」という内容で以外も多かった気もします。自分にとっては振り返りを兼ねた忘備録という意味で役に立つ内容ですが、読者の方にも参考になることが多少なりともあれば幸いです。