ZTF彗星(C/2022 E3)を撮影しました

少し前になりますが、1月28日、29日の未明にZTF彗星(C/2022 E3)を撮影しました。まだこの時は北の方向に位置していて、いつもの撮影している南向きのベランダからは撮ることはできなかったのでちょっと無理やりなやり方での撮影でした。その状況も含めて記載したいと思います。

撮影結果

まずは結果画像です。

C/2022 E3: 撮影 2023/1/28 2:42~4:24 @自宅
FMA135, ASI533MCP, CBP, AZ-GTi(経緯台モード)
Gain 300,Temp -15℃, Exposure 32s×186 を彗星基準でスタック
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理
3008x3008→2880x2160にクロップ

C/2022E3: 撮影 2023/1/29 5:03~5:31 @自宅
FMA135, ASI533MCP, CBP, AZ-GTi(経緯台モード)
Gain 300,Temp -15℃, Exposure 30s×56 を彗星基準でスタック
DSS(改造版), SiriL, Starnet2, GIMP で処理
3008x3008→2880x2160にクロップ

1枚目は、長く伸びるイオンテールがかなり薄いですが分かると思います。最初はあまり炙り出すことが出来ず、何度かやり直してこの状態にしました。処理については後述します。
2枚目は総露光時間が短く薄明前後だったこともあり、イオンテールは短めにしか写りませんでした。アンチテールはなんとか写し出せました。

どちらも、星と彗星を両方止めた画像を作ろうとしたのですが、StarNet2で星無し画像を作っても炙り出していくと僅かに残った星の跡が目立ってしまい、点像の星と合わせると違和感のある画像になるので、彗星だけ止めた画像のみを最終版としています。

自宅北側の撮影状況

自宅のベランダは南西方向を向いていて、北側にある天体は撮影できません。しかし、2年前にFMA135を購入した際、AZ-GTiと組み合わせると無理やりですが北側の部屋にある花台窓手すりに置けることに気付き、以降どうしても北側の天体を撮りたい時はこの方法で撮影しています。

花台窓手すりの奥行は35cmちょっとしかありませんが、FMA135+AZ-GTiという小型機材のおかげで北側の天体が撮影できる様になりました。しかし、幾つか問題もあります。

1つは安全性です。自宅は2Fにありこの場所の下はマンションの裏口に当たる所で、時折住人の方が通ることがあります。機材の設置や撤収は人が居ないことを確認して行えばよいのですが、撮影中は窓を閉めているのでもし地震などが起きても直ぐに対処が出来ません。万が一機材が落下して人に当たる様な事があってはいけないので、上の写真(右)の様に三脚と柵を太めの荷締めベルトで繋ぐ様にしています。万全とは言えないものの、かなり大きな地震でない限りは落下することはないと思います。

2つめは遮蔽物です。上の写真だと右手方向に階段(裏口用で非常階段みたいな階段)があり建物から張り出しているので、真北から45度より東側は見えません。

最後は建物の照明です。北側は各部屋の玄関側で廊下には照明があり、その照明が数年前に明るいLEDに置き換わりました。照明自体も明るいのですが、建物の向かいにあるドラッグストアの壁も照らされて結構な明るさです。深夜1:30過ぎになると廊下の照明の半分が消灯されるため、撮影はこの時間以降に行っています。それでも撮影した画像にはある程度カブリが生じてしまいます。自宅は西側の角部屋なので、上の写真で右側(北東側)ほどこの照明の影響を受けます。以下は今回撮影したものの1フレームをストレッチのみ行った画像です。

中央からある程度広い範囲に赤色のカブリがあるのが分かると思います。ZTF彗星の方向が丁度照明の影響が大きい方向でカブリが酷く、イオンテールの炙り出しには結構苦労しました。

以上の様に色々と制限はありますが、1月下旬に、ZTF彗星が深夜1:30以降で撮影できる範囲に位置する様になったので、やっと自宅から撮影することができました。

画像処理

彗星の処理は、撮影したフレーム全部を彗星基準でスタックしていました。1/28の撮影は露光時間も結構長めで、イオンテールもある程度写っている様に見えるのに、炙り出そうとすると星の軌跡に埋もれてしまいます。また、彗星基準でスタックしたものをStarNet2で星と分離しても、星が点像ではないためか暗い星は分離できませんでした。

因みに1/29の画像(結果画像の2枚目)は、全フレームを彗星基準でスタックした後StarNet2で分離し、分離できた明るい星の輝度を落として彗星画像と合成したものです。これと同じ処理をすると、1/28の画像は以下の様になります。

結果画像の1枚目と比べると、イオンテールが薄く長さも短く見えると思います。StarNet2で星と彗星をちゃんと分離できればもっと淡い部分を炙り出せるのではないかと思い、結果画像の1枚目は少し違う処理をしました。

処理としては、全部のフレームをスタックするのではなく、数枚ずつスタックして星を出来るだけ点像に近い状態にしてStarNet2で星を分離し、それを更にスタックするというやり方です。
DSSはスタックの基準となるフレームがスタック対象に含まれていなくても、基準フレームに位置合わせしてスタックしてくれます。そのため、以下の様に6フレームずつスタックして、約3分のスタック画像を複数枚作成します。

スタックした複数画像をStarNet2で星と彗星に分離後、位置合わせ無しでスタックして再合成しました。DSSで彗星基準スタックする際、撮影した画像に時間情報が記録されていれば、基準フレームとスタックするフレームの最初と最後の3つのフレームについて彗星の位置を画面上で指定しておけばスタックしてくれます。しかし、今回は最初の6フレーム以外うまく行きませんでした。そのため、今回は全てのフレームについて彗星の位置を指定しました。

その様にして作った画像の1枚をSiriLでカブリ補正(Background Extraction)とストレッチ(Generalised Hyperbolic Transformation)を行った後、StarNet2で星を分離したものが以下です。

一見、ちゃんと星が分離できている様に見えますが、星の分離は完璧という訳ではありません。同様に処理した彗星のみ画像31枚をスタックして淡い部分まで炙り出そうとすると、以下の様に僅かに残った星がスジになって浮かび上がってきます(以下は分かり易い様に画像を明るめにしています)。

そのため、炙り出しはある程度までに止め、星と彗星を両方止めた画像も作るのは諦めて、単に彗星基準で星が流れた画像として仕上げました。

動画

今回の処理で、彗星の位置は固定ですが星の位置が違う31枚の画像が出来たので、その画像を動画にしてみました。

youtu.be

1コマの露光は約3分ですが星は僅かに流れているので、AstroSurfaceのデコンボリューションを使って少し丸に近づけてみました。ノイズも少し目立つのでデノイズ処理をしています。

さすがに露光時間が短いので尾の変化は殆ど分かりません。コマの明るさやコマの周囲が変化して見えますが、これは各画像の明るさやカブリ具合が違うため、カブリ補正やストレッチをする際全て同じ調子に仕上げることが出来なかったためです。かなり頑張ってみましたが、これが精一杯でした。時間をかけて作った割には、恒星に対し彗星が動いていることしか分かりませんね。

まとめ

今回、イオンテールを炙り出すため普段と違う時間のかかる処理をして、更にその途中画像を使って動画も時間をかけて作ったため、撮影してからブログに記載するまで結構期間が空きました。そして、時間がかかった割に結果画像は少しノイズっぽく、動画も動きが分かる程度と今一つの成果物でした。
他の方々の美しい画像を見るともう少し何とかならないのかとも思うのですが、一期一会の天体を自宅から撮影出来たので “撮れただけでも十分満足” ということにしておきます。