木星の画像処理を見直してみました(前編)

9月も既に残り10日を切りましたが、今月は惑星や月の撮影を5日行っただけです。そのため時間に余裕がり、木星の画像処理を少し見直そうとソフトのパラメータをあれやこれや変えながら色々と試していました。今回はそれらについて記載したいと思います。書いているうちにかなりの長文になってしまったので、2回に分けて記載します(後編のリンクは以下)。

r77-maabow.hatenablog.com

なお、今回記載した内容は鏡筒やカメラなどの機材やシーイングなどの環境によって変わると思うので、数値や結果画像に関してはご参考ということでご覧ください。

画像処理見直しの経緯

時間があったというのも1つの理由ですが、毎年そのシーズンのベスト画像が撮影できた後に、もう少し画質が向上できないかと処理パラメータを変えて試していました。更に、以前記事にした様に昨シーズンまで2.5倍のバローレンズを倍率2倍で使用していたところを、倍率を少し上げて撮影する様になったため、処理パラメータも変えた方が良い気がしていました。そういう状況の中、9/6に良いシーイングで撮影ができ、現時点でシーズンベストとなったため、そのデータを使って見直しを行いました。いつもはその結果を記録していませんでしたが、今回はブログという形で残そうと思いました。

画像処理の概要と今回見直したところ

まず処理の流れですが、私は以下の様に行っています。

処理の流れで他の方と違うと思われる所は、デローテーション前に強調処理を行っている点と、オレンジの破線で示した“周辺用”の強調処理でしょうか。

デローテーション前に強調処理をやるという事例は、以前はあまり見かけなかったので間違った処理をやっているのかなぁと思っていましたが、最近この順番で処理されている記事も見かけたのでちょっと安心しています。
破線で示した部分は、光学系の回折により発生するリンギングを誤魔化すための処理で、リンギングが出ない程度に強調処理をした(周辺用)画像を作っています。この画像に、青い線で示した処理を行った(本体用)画像を合成しています。

今回処理パラメータなどを見直したところは、上図の赤字で示した4か所になります。前編では「①スタッキング」と「②Wavelet強調(周辺用の処理)」について記載します。

①スタッキング

木星は1ショット1分間で、4000から6000フレーム(露出15ms~10ms, Gain300~350)を撮影しています。それを4~8ショット撮影してデローテーションを行っています。1ショットを通常は50%スタックしていて、シーイングが悪いときは30%でスタックすることがあります。また、ADCは持っていないので、RGB AlignはONにしています。

今回見直したのは、Alignment Point(以降AP)の置き方です。木星の場合、今まではAPサイズを48前後にして、“APの数があまり多くならない様に”という程度で結構適当に決めていました。

今回どれくらいにすれば良いかを確認するため、APサイズをいくつか変えてスタック後に強調した画像を比べてみました。画像はシーイングが良かった9/6のもので、着目した点は主に以下4点です。

以下、結果画像です。

この様に、シーイングが良い場合はAP数が少ない方が良い結果となりました。

しかし、像が揺らぐ様なシーイングではAP数が少ないと模様がボケてしまいます。だからといってAP数を増やし過ぎても上図の様にボケた感じになります。AP数が多い(APサイズが小さい)と、位置合わせがうまく行かず少しズレた状態でスタックされるのだろうと思っています。
そうであれば、複数のAPサイズが設定される“Multi-Scale”を使うとよさそうという事で、Multi-Scaleにチェックを入れたものも含めて試してみました。

まずは、シーイングがあまり良くなかった9/7の画像で処理した結果です。上段がMulti-Scale OFF、下段がMulti-Scale ONの場合です。

シーイングが良くない場合、Multi-Scale OFF だとAP数が少ないとかえってボケてしまい、多い方が良い結果になります。Multi-Scale ON にしてもMulti-Scale OFFとほぼ結果は変わりません。

では、シーイングが良かった9/6の画像でMulti-Scale ON にするとどうなるでしょうか。比較用にMulti-Scale OFFでAP1の画像を一番左に置いています。

AP数214だと僅かに眠い感じはするものの、AP数20も95もAP数1(Multi-Scale OFF)とほぼ同じ結果になりました。Multi-ScaleにするとAP数が多くても大きなAPサイズも設定されるようになるため、位置合わせの誤差が減るのではないかと思います。

以上の結果をみると、「シーイングが良ければAP1」、「悪ければMulti-Scale ONでAP多め」が良いということになりますが、シーイングの良し悪しをどうみるかが難しいですし雲越しの撮影など状況も様々なので、ものによって設定を変えるのはちょっと面倒です。なので今回は、一律「Multi-Scale ONでAP Size 48程度」で処理するようにしました。AP Size 48は目安でAP数などをみて適当に変えます。

②Wavelet強調(周辺用の処理)

この処理は前述した様に回折によるリンギングを誤魔化すための処理で、これについては今回見直していません。しかし、こういう処理の事例をあまり見かけないので記載しておこうと思います。また、私はWavelet強調にAstroSurfaceを使っています。あまりこのソフトに関する記事は多くない様なのでAstroSurfaceのWavelet処理について簡単に記載します。

AstroSurfaceのWavelet処理

AstroSurfaceのWavelet処理の特徴は、デコンボリューションも同じ画面で指定できる点と、強調する解像度(空間周波数に相当するので以降「周波数」と記載します)の指定が2つしかないという点です。言葉で説明すると分かり難いので、以下の設定画面をご覧ください。※設定しているパラメータは、本体用の処理で実際に使った値です。

タブで2つに分かれていて、左がメインの強調処理の設定、右が色関連の設定です。赤枠で示した部分がデコンボリューションの指定、青枠部分がWavelet強調の指定です。この様にWavelet強調の周波数指定(画面上ではSizeと表記)は2つです。

例えばRegiStaxだと、強調する周波数が1~6のレイヤーに分けられて指定ができ、夫々の周波数毎に強調度合いを指定できます。一方、AstroSurfaceは強調の仕方がWavelets HFとWavelets LFの2種類あり、それぞれに周波数の指定が1つずつあるという構成です。マニュアルによるとWavelets HF は高周波成分の強調に使用し、Wavelets LFは低周波成分の強調に使用するという使い分けの様です。この2種類の強調がどんな感じかを可視化しようと、Siemens star chart(画像)に対してそれぞれの強調処理をやってみました。以下の画像がその一部を切り取ったものです。

処理特性の数値化は面倒なのでやっていませんが、強調の仕方が若干違うのが分かると思います。Wavelets HFは、指定した周波数より高い(Sizeが小さい)周波数が強調される様です。Wavelets LFも指定した周波数より高い周波数も強調されていますが、主に指定周波数あたりが強調されている感じだと思います。
あと、Noise Prefilterと書かれているものがRegiStaxの各レイヤーにあるDenoiseに相当し、強調することで増えるノイズを抑えるためのフィルターになります。

周辺用画像の処理

回折環が強調されたものがリンギングであれば、適切なPSFサイズを与えるとリンギングが見えにくくなるはずです。そのため、最初にデコンボリューションのPSFサイズを変えながらリンギングが目立たなく値を探します。そのあとで、リンギングが目立たない状態を保ったままできるだけ模様を強調する様に、Wavelets HF/LFなどの値を決めています。

9/6の画像に対して設定したパラメータと処理画像が以下になります。

PSFのサイズが、本体用の処理パラメータ(前掲の設定画面の値)と比べると大きな数値になっていることがわかると思います。Wavelets HFやWavelets LFもリンギングが目立たない様に少し変更しています。
なお、この「周辺用の画像」は、1セットの中で最も画質が良さそうな1ショットの画像を選んで行います。そして、「本体用の画像」をデローテーションする際の時刻は、この画像の時刻に合わせます。

「周辺用の画像」と「本体用の画像」は、以下の様に合成します。

合成処理についても今回見直しているので、詳細については後編に記載します。

前編のまとめ

毎シーズンこんな感じで試してみて、最適と思われるパラメータを検討している気がします。マニュアルなどをよく読めばもっと適切なパラメータが見つかるかもしれませんが、私は子供の頃からマニュアル類を読まずに使ってしまう方なので試行錯誤を繰り返してしまいます。こういう性分は歳をとっても変わりませんね。

そして、いろいろと試した結果はいつもやりっぱなしで記憶にしか残っておらず、翌シーズンになると記憶にある数値で適当に始めてしまっています。今回ブログに残しましたが、果たして来シーズンは見返すでしょうか...。