木星の画像処理を見直してみました(後編)

前回記事(前編)の続きです。

r77-maabow.hatenablog.com

画像処理の流れと後編の内容

以下は前編にも記載した処理の流れです。

後編では「②と④のWavelet強調(本体用の処理)」と「⑤画像合成&最終調整」について記載します。

なお、以降にAstroSurfaceのパラメータ設定に関する記載がありますが、パラメータや設定画面の説明については、前編の記事をご覧ください。

また前編にも記載した通り、今回記載した内容は鏡筒やカメラなどの機材やシーイングなどの環境によって変わると思うので、数値や結果画像に関してはご参考ということでご覧ください。

②Wavelet強調と④Wavelet強調その2(デローテーション前後の本体用の処理)

前編に記載しましたが、今まではデローテーションは強調処理する前にやるものだと思っていたので、デローテーション前の強調処理(②の処理)は少し弱めにしておいて、デローテーション後の強調処理(④の処理)を強めにしていました。
今回いくつか試してみて、②の処理でノイズが多少出てもできるだけ強めに処理しておいて、デローテーションによりそのノイズが緩和され滑らかになった画像を④の処理で更に強調した方がよさそうでした。まず、これが1つ処理を見直した点になります。

“ノイズが多少出てもできるだけ強めに処理” と記載しましたが、少しでも細かい模様を出したいという意図でパラメータを見直したので、具体的にはNoise Prefilter はできる限り0に近い値にして、Wavelets HFはSize=1でStrength=99、Wavelets LFはあまり低周波にならない範囲で設定する様にしました。また、デコンボリューションの設定も単なる強調フィルターの1つと見做して、細かい模様が出来るだけ強調される値を選択する様にしました。そのため、本来PSFの大きさから想定される設定よりは小さなPSFサイズを指定しています。

以下が②の強調画像で、左が今までの処理でやっていた処理、右が今回行った処理です(パラメータの設定値は前編に掲載した設定画面の値)。

色の違いは無視してもらうとして、左側の「今までの処理」にもスタック処理に関しては今回見直した設定で行っているため細かい模様が出ています。見直し後の画像は、それを若干ノイジーになるくらいまで強調しているのが分かると思います。夫々の画像について、この画像を含む7枚の画像でデローテーションした画像が以下になります。

これを更に④の強調を行った結果が以下です。

左側の「今までの処理」を処理した時のパラメータを保存してなかったので正確には分かりませんが、強調度合いは同じ位だと思います。見直し後の画像はちょっと強調し過ぎの感もありますが、後述する最終調整で調整するので④の処理を“強め”にするのは特に変えていません。

⑤画像合成&最終調整

④までで作成した周辺用の画像と本体用の画像をGIMPで読み込み(周辺用の画像は非表示時)、下図の様に本体用の画像にレイヤーマスクを追加して、リンギングが出ている内側だけを残して外側を透過にします。

そのあと、周辺用の画像を表示して、本体用画像を回転+移動させます。

今まではこれで合成作業を終了として、あとは可視レイヤーをコピー(またはレイヤーを統合)して色や明るさを調整、更にもう少し強調したければハイパスフィルターをかけたレイヤーを足してして終わりでした。
それを今回は、以下の様に本体用の画像を4枚コピーし、周波数の異なるハイパスを4種のレイヤーとして合成する様にしてみました。

ハイパスの周波数(GIMPの表記ではStd. Dev)は0.7, 1.5, 3, 6としていて、メインとなる低周波から高周波をカバーしているつもりです。そしてこれらを1つのグループにまとめて周辺用画像と合成します。

こういう風にしたのは、今まで最終調整した後に「やっぱりもう少し強調の度合いを変えたい」と思うことが時々あり、そうなるとAstroSurfaseで「④の強調」処理からやり直すことになり、周辺用画像と合成もしているためかなり面倒だったためです。
今回の様に、一旦作成した本体画像をハイパスの複数レイヤーにしておけば、各レイヤーの不透明度(周波数の強度)をGIMP上で変えられるので「④の強調」からやり直す必要がなくなります。

また、合成の仕方(レイヤーのモード)も(GIMP以外のソフトではどういう呼び方か分かりませんが)オーバーレイまたはハードライト、微粒結合などから選ぶことができ、画像によって仕上がり具合を多少変えることができます。
合成の仕方を変えると何が良いかというと、高周波成分を非常に強く強調すると、例えば暗い線などは、その線はより暗く、線のすぐ横はより明るくなるため、少し立体的(凸凹がある様に)に見えてしまうことがあります(リンギングと同様に回折の影響もあるかもしれません)。この凹凸感が合成方法により少し緩和される場合があります。

実際の画像でいうと、以下の左の画像に破線で示した部分が凸凹っぽく見える所で、この画像は微粒結合で合成したものです。一方、合成をハードライトにしたのが右の画像です(何れも①スタッキングの見直しは実施済み)。

凸凹感を完全に無くすことはできませんが、僅かに緩和されていると思います(殆ど変わっていませんが、そういうつもりで処理をした私にはそう見えます)。なお、単純にハードライトにしただけだと強調されすぎておかしな画像(絵を描いた様な画像)になるので、ハイパスのレイヤーの不透明度を調整しています。
全ての画像をハードライトにすればいいわけではありませんが、その画像にあった合成方法を選べるのは良いことだと思います。

処理の見直し前と見直し後の比較

今までのやり方で処理した画像が左で、見直し後の画像が右になります。

細かい模様がだいぶはっきり見えるようになったと思います。AutoStakkertの処理パラメータを変えたことで、元画像が多少高精細になったことが大きいと思います。また、今までのやり方でここまで強調すると少し違和感のある(凸凹がある様な)画像になっていましたが、それをできる限り抑えた画像にしたつもりです。その分、少し滑らかさが犠牲になりザラザラした感じになりましたが、まぁこれくらいであれば上出来だと思っています。

あまりシーイングが良くなかった9/7の画像は以下の様になりました。

こちらはシーイングの影響で細かい模様がボケているので、元々強調しても凸凹がある様な画像にはなりません。そのため、AutoStakkertの処理パラメータ変更の効果だけが出ていると思います。

まとめ

今回処理を見直しましたが、前の処理の方が滑らかさはあるので、時折見返すと前の処理の方が良かったかな?と思うこともあります。この辺は好みの問題で、今の自分は見直し後画像を好んでいるだけで一時的なマイブームかもしれません。所詮は自己満足なので、その時の好みによって処理は変えていいと思っています。

あと、最後に1つ参考ですが、9/11にMAK127の直焦点で撮影してスタックとWavelet強調だけを画像を掲載しておきます(処理パラメータは見直し前のもの)。

そして、この画像をバローレンズの倍率だけソフトウェアで拡大(+若干強調)したものが以下左の画像で、バローレンズを付けて今回見直した処理を行ったものが右の画像です。

直焦点の画像はデローテーションも行っていない1ショット画像です。それを拡大したものと、あれやこれや処理を見直したものの差はこれくらいのものです。惑星の画像は光学系の解像力である程度決まってしまい、画像処理で改善できるのはほんの僅かという事だと思います。

結局のところ、画質に大きな影響を与えるのはシーイングです。シーイングが悪ければ、どんなに処理を頑張っても高精細な画像は得られません。
また、鏡筒がMAK127で惑星撮影としては比較的小口径のため、画像処理で頑張るにも限界があります。もっと高精細な画像を撮りたければ、口径の大きい鏡筒を買うというのが正解ですね。