MAK127でNGC7293(らせん星雲)を撮影

気が付けばもう10月。先月は記事を書かずに終わってしまいましたが、天文活動は行っていて撮影したものが幾つかあります。今回は、その中から先日やっと処理が終わったNGC7293を紹介したいと思います。

今回の撮影

NGC7293は、昨年EVOGUIDE 50EDを使って6時間超の露光時間をかけて撮影しました。

r77-maabow.hatenablog.com

長時間露光のおかげで、自宅ベランダからでもある程度淡い部分まで写し出すことができました。しかし、焦点距離が250㎜と短く1インチのASI533MCPとの組合せでは小さく写り迫力に欠けるので、ブログにはトリミングをして掲載しました。

今回は長焦点で迫力のあるらせん星雲を撮ろうという言事で、MAK127+クローズアップレンズを使って撮影しました。焦点距離は約1,000㎜。ASI533MCPと組み合わせるとNGC7293が丁度いい大きさに写ります。

結果画像

まずは結果画像です。

NGC7293:撮影 2023/8/25 2:57, 9/10 0:31, 9/17 23:54 @自宅ベランダ
MAK127+ Kenko Close-up lens No.4&No.5, ASI533MCP, QBP, SA-GTi
FMA135+ASI224MC, PHD2によるオートガイド
Temp.=0℃, Gain=400(9/17だけ450), Exposure=45s (3日とも同じ)
8/25: 72frames, 9/10: 112frames, 9/17: 92frames, Total 276frames (3hr 27mn)
上記に昨年撮影した星無し画像(露光時間 6hr 23mn)を合成
※昨年の撮影条件等は本文中のリンク先参照
DSS(改造版), Siril, Starnet2, AstroSurface, Neat Image, GIMP で処理

昨年の撮影と比べると焦点距離は4倍です。狙い通り、非常に迫力のある画像となり、満足のいく結果となりました。ただ、この状態になるまでは、普段とは少し違った処理をしたので、少し説明したいと思います。

露光不足の対応策

説明の前に、普段と違った処理になった理由の1つである露光不足の対策について補足しておきます。

昨年撮影に使った光学系(EVOGUIDE 50ED)はFno.5で、今回の光学系(MAK127+クローズアップレンズ)はFno.8です。昨年の露光時間相当にしようとすると、単純計算で16時間以上の露光が必要になります。
しかし、NGC7293は南中時でも高度が33度ほどです。自宅からだと東から南東にかけて光害の影響を受けるため、南中過ぎから高度が20度位までの間に撮影するとなると、1日に撮影できる時間は長くて2時間程度。16時間を超える露光時間を稼ぐには、8日以上かかることになります。

私は現在週3日のパートなのでフルタイムの方に比べると休みは多いのですが、休日に必ず晴れるわけでもないですし他の天体も撮りたいので、同じ天体を2時間ずつ8日以上撮影するのは現実的ではありません。そこで、今回の画像処理に昨年撮影したものも加えてしまうということを考えました。

焦点距離が4倍も違う画像を加えるためどんな絵になるか心配だったので、最初(8月25日)の撮影の後、様子見で一旦処理してみると特におかしな絵にはなりませんでした。これは行けそうということで、その後9月10日,17日に夫々1時間程撮影を行い3時間半ほど露光時間が稼げたところで天候も安定しなくなったこともあり、画像を仕上げることにしました。昨年の露光時間と単純に足し合わせると、総露光時間は約10時間となります。

画像処理

普段と違う処理は、以下の2つになります。

昨年撮影した画像との合成

ポイントは昨年の撮影と今回の撮影で焦点距離が大きく違う点です。両者を一緒にスタックすることも考えましたが、私が使っているDeep Sky Stacker は焦点距離の差が大きいものはスタック出来ません。自作したソフトも、改良すればスタック出来そうという事は分かりましたが、結構面倒な上に必ずうまく行くとも限りません。

なので、昨年分と今回分で個別に処理し、星無し画像についてのみ昨年分と今回分を合成することにしました。なお、昨年分は改めて処理せず、処理済みのものをそのまま使いました。以下、図を使って説明します。

昨年の画像と今回の画像の合成処理

まず、昨年の画像(昨年処理したデータファイル)を回転・拡大・移動させて、今回撮影した画像に対し位置合わせします(上図①)。次に、今回の撮影データをスタックからStarnet2による星無し画像生成まで行っておきます(上図②)。

そして合成ですが、昨年分の星無し画像は焦点距離が短いため拡大すると解像は粗くなりますが、露光時間が長いので淡い部分まで写っています。一方今回分の星無し画像は、淡い部分は写っていない代わりに写っている明るい部分は焦点距離が長いので昨年分より高解像です。そのため単に加算平均するのではなく、淡い部分と明るい部分で比率を変えて合成しました。

処理としては、昨年の画像(位置合わせ後)にレイヤーマスクを追加し、画像の明るい部分の透過量が多めに、淡い部分の透過量が少なめになるように設定します(上図③)。具体的には、マスクに今回分の画像をコピーし、その輝度値を反転して適当にトーンカーブを調整しています。

説明図だと絵が小さいので、合成前後の画像を大きめの画像で載せておきます。

画像合成の様子
(左)昨年撮影分 (中央)今回撮影分 (右)合成した画像

4倍ほど拡大処理した画像を足し合わせているので、合成後の解像感が低下するのは仕方ありません。しかし、拡大して見ない限り解像の低下はあまり目立たず露光不足はそれなりに補われているので、狙い通りに昨年分と今回分の良いとこ取りになっていると思っています。いかがでしょうか?

2つの色調整画像の合成

色調整は、Wikipediaに掲載されている「らせん星雲NGC7293のハッブル宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の可視光線における合成イメージ」の画像をお手本として行いました。昨年もこの画像の様な色合いにしたいと試行錯誤しましたが、なかなかお手本の様にはなりませんでした。

今回も色々と調整するのですが、いくらトーンカーブを弄っても同じような色合いになりません。周辺部の色がお手本に近付けると中央部が緑っぽくなってしまい、中央部をお手本に近づけようとすると周辺がマゼンタっぽくなってしまいます。以下は、それぞれの画像です。

2種類の色調整画像
(左)中央部をお手本に近づけたもの (右)周辺をお手本に近づけたもの

私はどちらかと言うと左の色合いが好みなので、いつもであれば左の色合いで妥協して仕上げます。しかし、今回は出来る限りお手本に近づけてみたくて、中央部と周辺部のウェイトを変えて左右の画像を合成してみました。

処理としては、上述の合成処理と同様にレイヤーマスクを使って行いました。マスクは上の2つの画像をRGBに分解し夫々のチャンネルを足したり引いたりすることで中央部の領域を作り、適当にぼかしたりコントラストを変えたりしています。以下は処理画面のスクリーンショットで、レイヤー構成の部分を見てもらえばどの様に合成したか分かると思います。

2種類の色調整画像の合成処理画面

トーンカーブの調整だけではどう頑張ってもお手本の様な色合いにはならないので、今回は敢えていつもはやらない処理を行ってみました。

しかし、エリアによって異なる色調整をするのはちょっと反則な気もしています。なぜなら、そのエリアを画素のレベルにまで細かくすると、お手本画像をコピーしているのと同じになるからです。流石に画素レベルというのはちょっと極端で、そんな処理をすることはありません。また、反則といっても誰に怒られるわけでもないのですが、画像処理を行っているとどこまでやって良いのかいつも気になってしまいます。
まぁ、以前から星と背景という2つのエリアに分けて異なる調整をしている訳ですから、考え過ぎなのかもしれません。

まとめ

今回はいつもと違う2つの処理(「昨年撮影した画像との合成」と「2つの色調整画像の合成」)を行いました。その結果、淡い部分もある程度表現でき色合いもお手本にかなり近いものとなりました。また解像という意味でも、淡い部分が眠くなっていますが明るい部分はそれなりなのでパッと見た感じは悪くありません。

総露光時間は昨年分と今回分の単純合計で約10時間になります。今回の様な処理だと単に足し算で良いのかよく分かりませんが、初の10時間露光によって「長焦点で迫力あるらせん星雲を撮る」という目的が達成でき、満足のいく結果となりました。